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エルトゥフの森での攻防.5

黒刀から伝わる衝撃によって、ヒビの入った腕に激痛が走ったのと、チハの頭がボールのように撥ね飛ばされていったのは同時だった。


「いってええええええええーーー!!!!」


懐かしいこの痛み。


いつぶりだ?

ルツァ・ラオラ戦振りか?


思わず折れた腕を掻き抱く。

黒刀は離さなかったが、涙が出るほどに痛い。


でもこれで残り一体と思った所で、カリアの手がオレに伸びて思い切り突き飛ばした。


「え!」


目の前をチハの岩の腕が通過した。突き飛ばされてなかったら、今頃オレの頭が無くなっていたかもしれない。

いや、それよりも。


「なんで…首跳ばしたのに」


「バカ!!まだ終わってないよ!!」


火傷で所々肌が赤くなっているカリアが剣を構える。


『フフッ、フフフフフフ。人間ってバカだよね。首さえ飛ばせば死ぬと思ってんだもん。もっとも、人間の振りしている奴もバカだったみたいだけど!!』


メキメキと音を立てて、チハの首が再生していく。その光景は正しくホラーだ。

唖然としながらそれを見ていて、ハッと跳ばした方の頭を見ると、なんとただの土塊つちくれへと変わっていた。


(こいつ、まさか不死身なのか?)


思わずそんな考えが頭をよぎる。

オレも確かにネコと協力して死ににくくはなっているが、腕や脚を切断されれば恐らく再生できないし、首を跳ねられれば間違いなく死ぬだろう。


右腕は骨折が治るまではしばらく使用不可能な為、黒刀を左に持ち変える。


一応両方扱えるように練習していたが、右よりも動きは悪いので、出来るだけ逃げ回らないと。


「ライハ、腕はどのくらいで治りそうよ?」


カリアが訊ねてきた。


オレは折れている箇所の痛みが少しずつ和らいでいくのを感じながら、恐らく三分ほどで治りそうと目星をつけた。


「およそ、三分くらいかと」


「…そうか、それまではなんとか持たせんとね」


頭まで再生し終えたチハが襲い掛かってくる。

八本の蜘蛛の脚を駆使しての攻撃は、脚の先端が刃物のように鋭くなっている点も含めて怒濤の攻撃となった。


「っ…!」


左側のヒビの入っている箇所も受け流す度に悲鳴をあげている。

カリアがそれを分かってか、出来るだけ攻撃を受けてくれようとしているのだが、チハは何故か必要にオレに狙いを定めて攻撃してくる。


「ぐっ」


あまりの痛みに脂汗が噴き出す。


三分があまりにも長い。


攻撃を喰らった部分から血が流れ、激痛のせいで意識が朦朧としてくる。このままじゃ駄目だ。


いくら破壊してもすぐさま再生するチハを見ながら、ふと、ある違和感を感じる。

魔力の流れが、普通とは違う気がした。


通常魔力の流れは体を血液のように循環しているものだが、チハの魔力は下半身の蜘蛛の部分から上半身へ向けて一方的に流れて行っていた。


『なに!?余裕あるの!?』


「ライハ!!」


「!!」


背中側から突然の攻撃。

一瞬背中が冷たく感じ、次の瞬間とてつもない熱さが襲ってきた。


吹っ飛ばされて地面に転がる。一瞬背後の様子が見えてようやく何が起こったのか分かった。リュニーの火の玉が直撃したのだ。


しくじった。

あれだけ周りの様子を把握しながら戦えと言われていたのに。


「ゲホッ、ううーーーっ!」


あまりの痛みに呻き声しか出ない。


だが、ここで倒れていれば良い標的だ。


痛みがマシになってきた右手に黒刀を持ち変えながら立ち上がる。そこでようやく周りの状況を確認できた。


火の玉により、地面や木が所々焼けている。

キリコは火傷は無いが、その代わり何で切りつけられたような傷がある。アウソは腕に酷い火傷をしていた。体中も最初の攻撃でやられたときのなのか、あちらこちらが赤い。ウンディーネは随分小さくなってしまって、今じゃもうコップ一杯程しかない。

カリアも肌が赤くなっているが、まだ比較的傷は少ない方だった。


なのに悪魔側の損失は今のところゼロに近い。


「ふぅーー…」


強い。


ザワリザワリと体が変な感覚に包まれていく。

怒りではない。

どちらかと言うと、喜びに近い感覚で、とうとう命の危機に頭がおかしくなったのかと思ったが、そのお陰が少し痛みが消える速度が速くなった気がした。


腕の痛みも落ち着き、背中の痛みの先程の半分しかない。


ふと、空を見ると水の塊が高速でやって来ているのが見えた。ウンディーネの本体が加勢をしに来たらしい。


少し息を付いて心を落ち着かせると、前を見る。驚きに満ちた顔のカリアと喜びに満ちた顔のチハを見据え、強く地面を踏み締め跳んだ。


「!」


思った以上の加速に少しビビりつつも、迫り来るチハに向かって勢いを乗せ蹴りをぶちこんだ。


風を巻き込んだような感覚だった。

足がチハに接触した瞬間、間で爆発でもしたのかと思うくらいの衝撃が起こり、それは自らに返ってくる事なく全て攻撃力へと変換された。


チハの上半身が半分ほど吹っ飛んだ。


そして蜘蛛の下半身もその勢いに耐えられず飛んでいき、木々を薙ぎ倒しながら遠くへと飛んでいった。


戦うのは痛いけど楽しいな。


着地をして、折れた骨や背中を診てみると治っていた。ネコが超頑張ってくれているのかもしれない。後でめっちゃご褒美あげないと。


「ライハ…」


カリアが恐る恐るという感じに近付いてきた。


「? どうしたんですか?」


カリアの呆気に取られた顔は珍しい。

そう思っていると。


「大丈夫なの?体」


と言われた。


体?

傷は治ったし、なんか変なところあったかな?


「何がですか?」


訊ねると、カリアはオレの頭を指差した。


「あんた、角生えてるよ」


「へ?」


カリアの言っていることが理解できなくて頭に手を伸ばすと、額から二本、小さいが硬い突起が生えていた。


「え"??」

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