悪魔
『嫌な臭いがする』
と、ネコが唸りながら言い、キリコが眉間にシワを寄せ、「血の臭いがする」と、駆け出した。それにオレ達も続く。
「!」
とてつもない臭いがし始めた。
血と、腐臭。
そして何かを咀嚼する音。
「!!?」
その光景にオレは絶句した。
積み上げられた骨の山。その骨のなかに転がる頭蓋骨は、どう見ても人のものだった。
「…悪魔」
カリアの声に骨の山から視線を前方に向けると、一人の女が山に腰掛けながら人の腕と思わしきものを食べていた。
肉を皮ごと剥ぎ取り咀嚼する、滴る赤はまだ新鮮なものである事を証明していた。
女の姿は異形だった。
一般的な人種でも、獣人種でも、有翼人種でも人魚でもない。
青白い肌に赤い瞳。ウェーブがかった栗色の髪から巻いた角と弧を描く角が二対生えている。先に棘の付いた尾に、腰からは蛸の脚に似た触手が生えていた。
赤い瞳がキョロリと動いてこちらを見る。
『あら、取りに行かなくても、勝手に獲物が迷い混んできた』
悪魔はニヤリと笑みを浮かべると、口を大きく開けた。
ハッとカリアが何かに気付く。
「ライハ!!ありったけの雷を放出して爆音を出せ!!」
「!!、はい!!!」
魔力を腕に纏わせ、大きく振り上げる。
悪魔からの発せられた音とオレが腕を降り下ろして雷を発生させたのはほぼ同時だった。
洞窟内に響き渡る二つの音が激しく振動して足元にある小石がジジジと小さく跳ねる。
ネコは尾を使って耳を塞ぎ、カリア達も耳を塞いでいた。
悪魔は一瞬驚いた様に目を開くが、嬉しそうに目を細めた。
『あらあら、やるじゃない』
ジーンと鼓膜が麻痺して音が上手く拾えないが、ネコが魔力融合して音を伝えてくれた。
『このレエーの攻撃を防ぎきったのは初めて、ふふふ。これは殺り甲斐があるわね』
ゾワリと背中に鳥肌が立つ。
悪魔から発せられた圧に足がすくみそうになった時。
「臆するな!!奴を叩き切るよ!!!」
カリアの応戦する様な声と圧で、恐怖が吹っ飛んだ。
気付くとキリコが既に攻撃を仕掛けている最中で、壁を踏み台のようにして跳躍し、悪魔に剣を振りかざしている。
悪魔はキリコに向けて手を向ける、それにオレはすぐさま雷の矢を放ち、アウソはすかさずキリコとは反対側から槍を手に迫っている。
雷の矢をすんでで回避した悪魔にキリコの剣が迫る。
だが。
『残念』
キリコが触手によって殴り飛ばされる。
「くっ」
アウソにもう一方の触手が迫り、すぐさま受け流しに掛かる。だが、あの触手、想像よりも硬いらしく、槍とぶつかる度にゴンだかガンだか重い音が聞こえる。
吹っ飛ばされたキリコが受け身を取るのを横目に、オレも剣を手に襲い掛かる。それに気付いた悪魔は触手を使って、骨の山に力一杯スイング。
飛んでくるたくさんの骨に、慌てて回避すると、目の前に触手が。
骨は囮。
『!!』
悪魔が上をみる。
次の瞬間、カリアが上から降ってきて、攻撃に触手を割いていて防御が薄くなった悪魔の胴体に、カリアの飛び蹴りが炸裂した。