ユイからの連絡
橋を渡り終えるまでには約1週間掛かる。
その間渡る人はどういう生活をしているのかと言うと、普通の生活をしていた。
「橋だよな」
「橋だよ」
『人住んでるのか』
「住んでる」
橋の上に宿屋が建ってる。
店もある。
空を覆う霧が凄いだけで、橋は町近くの道と変わらず人が旅をしやすいように工夫されている。
まるでマテラでのリオコスタの上位版だ。
よく見ると宿屋周辺は橋が広めにされている。あらかじめこうなることが分かっていたかのようだ。
といってもやはり橋の上に建つ宿屋というものは値段が高いらしく、金がない人達は道に寄りかかり仮眠を取りつつ移動をしていた。
かくゆうオレ達もそっち派である。
金がないわけではないが、馬を走らすことが出来ないので、できるだけ止まる時間を短くするのが狙いだ。幸いにも駿馬の体温は高いので、ウォルタリカへと近付くに従って下がっていく気温の中でも集まって寝れば快適だ。
もっとも見張りのために必ず一人は起きているんだがな。
「ん?」
見張りをしながら光量を下げてスマホを弄っていると、通知が来ていた。しかも50件近くも。
「!!?」
まさか神からの通知を無視しまくっていたのかと慌てて確認すると、送信者の名前を見て驚いた。
「ユイさん…」
この世界に同時期に召喚された勇者の一人、ユイ・ノブアキ。
勇者の中で彼だけとは交流があった。
タゴスと一緒に剣術の修行を着けてくれ、頼りになる先輩のような人だった。
元気にしてるかな。
思えば、急にマテラに飛ばされたからユイにもタゴスにも心配を掛けた。ウコヨとサコネはオレの身を案じて飛ばしてくれたから、きっとウロにも報告は行っていると思う。
それにしても、なんで急にこんなに通知が大量に来たんだろうか。
普段サイレントモードで通知を切ってはいるし、そこまでスマホを見ないけど、カメラはちょくちょく使うから気付かない訳がない。
辺りに人がいないのを確認してから通知を開くと、オレの身を心配した言葉が綴られていた。
どうやら、オレは黒い化け物に食われて死んだとされているらしいが、生きていると信じているとか、生きているのなら連絡をくれとあった。
それを見て、ユイにどれだけ心配を掛けたのか分かった。
それからシンゴの暴走で村や森が消え、それによる処分の事、スイが連れていかれた事、クローズの森から魔物が大量に涌き出ている事等が記載された。
どうやら、オレが消えたあとホールデンは大変なことになっているらしい。
オレに関係があるのかどうなのかは知らないが、胸の奥が絞られるように痛んだ。
更に読み進めると、ノノハラやコノンが変わり始めようとしている事、ユイ事態もクローズの魔物と戦い続けている事が記載されている。
タゴスも絶えず涌き出る魔物に苦戦を強いられ、ホールデンの兵士は疲弊し始めているらしい。
そんなホールデンの報告とオレの心配の事が交互にあったが、後半近くになって、オレは固まった。
「シンゴの腕が魔物のような物と融合していた…?」
シンゴの腕を飛ばした事をオレは朧気ながらも覚えている。
剣を突き刺される直前、シンゴの手首を尾を変化させたもので撫で斬った。
それが、シンゴの腕が魔物のような物と融合している?
ホールデンは神聖魔法で満ちている。
魔物と融合しているのがわかれば、ウロが何とかしてくれるはずだろう。
まさかウロにも何かあった?
眉間に皺が寄るのを感じながら目を通し続け、オレはようやくある問題が解決する物を見付けた。
手配書の謎だ。
ユイからの情報によると、活発に勇者活動をするシンゴは黒い化け物討伐に燃え、コノンに黒い化け物を見付け出すように頼んだ。コノンは黒い化け物はあの時クローゥズに呑まれて消滅した所を見ているから無駄だと言ったが、シンゴはそれでもいいから探せと半分脅し混じりで探させたらしい。
コノンは探索の魔法を使えた。
一体何属性なのか分からないが、コノンは鍛練を続けた結果、なんと黒い化け物を探し当てた。
勿論、黒い化け物の正体はネコだ。だが、主体はオレなので、オレが写し出されたという。
しかも見世物にされている時の、あの血塗れのやつ。
それを見てシンゴは狂ったように喜んだらしい。
そしてこう言い放った。
『やっぱりこいつは魔族だった。みろ!獣に化け、クローゥズに呑まれても死なない。それに目も人のモノではない!オレは当たっていた!』
と。
ユイが止める間もなくシンゴはこの報告を誰かにして、手配書がばら蒔かれた。いわく、ホールデンの魔物騒動の犯人として、だ。
オレは盛大に頭を抱えた。
事態は、オレが思っていたよりも深刻だった。
もうシンゴ嫌だ。
オレほんとにこいつ大嫌いだわ。
なんでそういう思考になるのか凄い不思議。不思議すぎて感心するレベル。
これ、日が上ったらカリア達に見せよう。
きっと爆笑の嵐だ。
腹を抱えて笑ってくれるに違いない。
てかオレの心の為にも笑い飛ばしてください。
ゲンナリしつつ更に読む。
既にユイからの報告書へとなりつつあるが、多分ユイも書くことによって心の整理を着けたかったのかと思う。
そして、最後に差し掛かった辺りで、スマホを落とし掛けた。
ユイは、国の混乱の全責任をオレに押し付けようとしているホールデンに見切りをつけ、逃亡すると書かれていた。
そして願わくば、この情報が無事オレに届くことを祈ると締め括られていた。
日付を見ると半月前。
それからの物はなかった。