ホームシック中
更に数日後。タゴスが遠征から帰ってきた。
こんがりと日焼けしていたので何処の方にいっていたのか訊ねると、ホールデンの南方、サーザとの国境付近で大物の魔獣が大量発生していたので討伐しにいっていたらしい。
その魔獣は太陽光を反射して攻撃する魔獣だったらしく、そのせいで日焼けしたとか。
よくわからんが、雪焼けみたいなものかな?と何となく理解した。
そして流れのままにお互い木剣を片手に訓練所へと集合した。
「お!なんか攻撃が重くなったな!腕立ての回数増やしたのか?」
久しぶりの打ち合い中にタゴスがそんなことを言ってきた。
「マジで!?やった!実はお前がいない間ユイさんから重りのついた木剣借りてひたすら振ってたんだ。もちろん腕立てもしてたけど、そう改めて言われると凄い嬉しいな」
「どうりで体幹がしっかりしてきてると思った。これなら模擬戦しても大丈夫そうだな!」
「いや、それはちょっと…」
待って下さい。まだ手加減なしのお前についていける気がしないです。
「いやいや、大丈夫だ」
「いやいやいや、あと少し待って」
「いやいやいやいや、大丈夫だって」
いや、まじで待って!!
汗をタオルで拭って水を飲む。
タゴスの模擬戦やろうぜ攻撃を振り払い、本日のノルマを達成したオレは椅子に座り込んで空を見上げていた。
ここに来てもうすぐ1ヶ月。
最近になってようやくこの世界に慣れてきたからなのか。
「オレ…、なんでここにいるんだろうな」
ホームシック発生中です。
解呪の儀の後や訓練の合間の軽く気分が落ち込んでいるときにフワッとあちらの家族や友人、バイト先の事なんかを思い出す。
心配してるだろうな。
ふと脳裏に浮かんだら彼女の顔は頭を振って消した。
思い出すと泣きたくなるからです。
「勇者様だからだろ?」
「うわ!びっくりした。タゴスかよ」
いきなり誰かが答えてきたので肩が跳ね上がる。
答えたのはいつの間にか隣に座っていたタゴスだった。
勇者様だからか。
「……勇者っていってもさ。オレ特に勇者らしいこと何一つないよ。完全足手まとい。魔法もさ、まだ全然で……」
あ、やばい。本格的にネガティブ入ってしまった。しまった、これはスパイラルするやつだ。
「ウロさんにも迷惑しか掛けてないし…。クソ、なんでオレなんか召喚したんだ」
きっとオレよりもちゃんと勇者が出来る奴なんてたくさんいたはずなんだ。こんな初めから呪われてる奴がまともな勇者なんか出来るはずがないんだ。
ポン、と背中に手が置かれた。
「実はオレもさ、そう思っていた時があったよ」
「?」
どういうことかと顔を上げるとタゴスは何やら真剣な顔をして広場を見つめていた。
「オレはこの国の生まれじゃなくて、本当はもっとずっと南の方の出身なんだけど、とある事情でこの国に来たんだ。
人探しなんだけど…。
だけどさ、色々あって、初めの頃はなんでオレここにいるんだとか、もっとうまく出来る奴いただろとか毎日思ってた」
「………」
「だけどさ、そうは言っても選ばれてしまったのは仕方ないことだし、この際前向きに今出来ることを一生懸命頑張ることだ。そうすればいつか達成できるもんなんだよ」
だろ?とタゴスが笑う。
確かに、今ウダウダしたところで何も変わらない。
タゴスの言う通り、今は一生懸命出来ることを頑張るしかないんだ。
スッと心が晴れた気がした。
「ありがとな、タゴス」
「なに、お互いの傷を舐め合っただけさ」
「最後の一言がなかったら感動できたのになー」