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迷宮へようこそ~決断~

よいしょよいしょと、神の遣い化されたヴィーゥが作った砂のトンネルを通り、何とか地面から這い出てくると、魔物マヌムンの屍の山を作り上げただろうカリアが地面に何かをしている所に遭遇した。


「あ、カリアさん」


「え、なんで地面から出てきたよ」


「カリアさんこそ何してんすか」


服についた砂を叩きながら近寄ると、地面が割けたような場所を中心にカリアが石を使って魔方陣を描いていた。


見たことのない魔方陣で、その一部は屍の山に続いている。


(てかカリアさん、魔法を使えないっていってたのに、魔方陣を描けるってどういう事ですか)


魔法を使えなくても魔方陣を描くことだけなら可能であるが、そんなのただの絵でしかない。

底の抜けたコップがコップの機能を果たさないのと同じである。

そもそも、複雑な魔方陣を覚える意味すらないのだ。


「そこに地面に亀裂が入っているでしょ、それをこれから塞ぐんよ」


ガリガリと手慣れた動きで魔方陣を描き終えたカリアが、滅多に使わない魔銃を取り出した。


それをターゲットマーカーに似た所に標準を合わせ、カリアが魔銃に魔力をめ始める。

魔法を使う才能はないが、魔力が無いわけではない。


カリアから膨大な魔力が溢れだし、それが魔銃へと流れていく。魔銃のコアが強く光だした。


ーーバンッ!


カリアの魔銃から弾が飛び出し魔方陣に着弾すると、途端魔方陣が強い光を放ち、屍の山がみるみる内に魔方陣にのみこまれていく。それと同時に地面の裂け目がメキメキと酷い音を立てながら閉じていった。


アレは世界の亀裂だ。


二つの世界が衝突した弾みで入ったヒビが大きくなり、向こう側の世界と繋がる道。

魔界と呼ばれる世界は魔族が人と同じように暮らしているが、こちらとあちらの生き方のルールは違う。魔族からすれば、人間はただの美味い獲物か、弱い獣と認識しているらしい。


勿論人間も魔族を侵略してくる敵としか見ていないが。


もう少しで閉じるヒビを眺めるが、オレは神の情報でこの行為は焼け石に水な事を知っていた。


世界の亀裂が完全に塞がる事はない。


このヒビはどんどん増え、放置していればこの世界も向こうの世界も崩壊して消えてしまう。

塞いだとしても、それはただの応急処置にしかならず、必ずまた世界の圧力で開く。しかもヒビは前よりも酷くなった状態で。


神が言うには、ヒビが世界全体に及び、形を保つことが出来なくなって崩壊すると、オレも含めみんな死んでしまうらしい。


入り込んできた情報と神の言葉を照らし合わせて考えて、脅しじゃない事は分かった。だからオレは悩みに悩んで。





三代目勇者になる事を決意した。





オレはこの世界と、仲良くなった人たちが好きだ。

はじめは慣れない環境に疲れ、帰りたいと願っていたが、ようやく好きになった時に世界が終わるなんて納得出来ないし、何より仲間が、知り合いが死ぬと言われて何もしないわけにはいかなかった。


勇者の証は、一つしか存在できず、ネコが死なない限りは次の勇者は選ばれない。


しかも今オレと半分融合しているせいで、ネコが存在しててもオレも勇者の証の保有者で、ネコが消えればオレの方に証は自動的に平行移動してくるらしい。


どう転がってもオレは詰んでるという事だ。


ならばせめて、出来ることは少ないが、全力を尽くして何とかしようと行動するだけでも多少は変わると思う。

オレは普通の一般人だから、きっと神が活躍した初代勇者にも、英雄と謳われる二代目勇者の足元にも及ばないだろう。


でも、それでも、やれることはあるはず。


神が言うには、次の大戦が起こる時、ネコをこんな愛らしい姿にした犯人がこの世界を乗っ取って何かをしようとしてくるらしい。

犯人は真実を知ってて世界を滅ぼそうとしているのか、それとも知らなくて別の事をしようとしているのかまでは分からないが、どちらにしても時間がない。


やれることをやらねば。


カリアを見る。


亀裂が完全に閉じて、流れ出た汗をぬぐうカリアに近付いてオレは口を開いた。



「カリアさん。“始まりの剣”と、テレンシオ・ローリング・ヴァガバンドさんについて伝えたい事があります」














ーカリアsideー


一瞬、なんて言ったのか理解できなかった。


何故ライハが“始まりの剣”の事を知っているのか。何よりも、何故二代目勇者の本名を知っているのか。


二代目勇者はテレンシオ・ローリングという名前は有名であるが、ヴァガバンド(放浪者)の名を知るものはほぼいない。

それこそ、勇者の仲間の子孫や、協力者でなければ知り得ないはずだ。


カリアは二代目勇者の仲間の一人であるマオ・トルゴの一番弟子である。

カリアは本当の名字は違うが、家族を捨て、師匠の名字を譲り受ける際、二代目勇者の身に起こった事実を知らされた。


魔王を倒し、こちらの世界へと戻る途中、魔王の生き残りの部下に襲撃され、二代目勇者は消され、師匠とその仲間は強力な呪いを受けた。


『テレサは死んでいない』と、師匠は常に言い、呪いで死ぬまで行方を探し続けた。

“始まりの剣”を見付ければ何とかなると、最後に言い残した師匠の願いを叶えるべく、世界を巡り歩き、仲間の意志を継いで今後の戦いに備える組織に入り活動してきた。


それを、ライハは何処で耳にしたのか伝えたい事があると言った。


動揺を何とか押さえ込みつつ、カリアはライハに向き直る。


「伝えたい事って?」


ライハはゆっくりと言葉を紡いでいった。

初代勇者の事、第一次人魔大戦の事、魔界の事、二代目勇者の事、そして、もっとも衝撃を受けたのが。


「オレは、勇者の証を継いで三代目勇者になりました。それと、オレのネコが、元二代目勇者のテレンシオです」


フードの中で不貞腐れたネコを指差したライハの表情は真剣そのもので、嘘をついているようには見えない。


それどころか、ライハは何かを決意した男の顔になっていた。


カリアは一度深く息を吸い、考えを纏めた。


「初めから、面白い子だと思っていたけど、これは流石に驚いたね」


「カリアさん…」


「いいよ、そっちが世界を背負うってんなら、コッチも協力は惜しまない。全力でコッチの持っている技を全て叩き込む!!」


一瞬ライハの顔が青ざめた気がしたが、世界を背負うって覚悟をした男ならば、こちらも世界を相手にしても大丈夫なように鍛え上げよう。


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