迷宮へようこそ~崖と蜘蛛~
どうしよう。
まず、自分が何処にいるのかも分からん。
こんなことならカリアに全体図を大まかにでも聞いておくんだったと後悔するが、既に後の祭りである。
「とりあえず、上を目指そう。そうしたら多分何処かしらには出られるはずだ」
よし、と立ち上がり今いる通路を確認する。
道は左右に伸びている。
右も左も景色は特に大差無い。まずはどっちに進むかを決めよう。
「まさかこんなところで役に立つとは思わなかった」
腰ベルトに差しっぱなしにしていた謎の黒刀。
それを抜き、地面へと立てて手を離す。
ーーカタン。
右に倒れた。
「さて、行くか」
地面を黒刀でガリガリ削りながらオレは右側の通路へと進んだ。
水も食料も今のところは問題ない。
一週間は余裕で過ごせるだけの量はあるし、節約して食べれば二週間。さらに言えば魔物を狩って食べれば更に持つ。
生肉うまくないけど、食べれるからまだマシなのか。
獣時代を経験しているからか、生肉食べても腹を壊さない。
でもあまり美味しくないからできるだけ食べたくはない。
やっぱり肉は焼いた方が美味い。
「ん?」
しばらくいくと何かを見つけた。
人ではないが、白っぽい何かに、何かがまとわり付いている。
何だろうと近付いてみて、見なきゃよかったとまた後悔した。
人骨だった。
それにスライムみたいな物がくっついて、骨を溶かしていた。
「南無阿弥陀仏」
一応その人骨に向かって手を合わせておいた。
スライムみたいなものは何もできなかった。
骨を溶かしているのなら、きっと酸的な能力があるはずだから、下手に触ったら手が溶けるかもしれない。
更にいくとまた道が分かれていた。
「どっちにいこうかなーっと。こっち」
黒刀が左に倒れたので左へ進む。
景観は相変わらず岩壁と光る草。
それが突然途切れた。
「崖」
道が崖によって分断されていた。
割れたのか崩れたのか。
どちらにしても道が途切れていては向こう側にスムーズに行くことができない。
下を覗いてみるも暗くて何も見えないし、特に音もしない。
「これは向こう側に跳ぶしか無いんだろうな」
一応色々頑張れば飛べない距離では無いが、それでも怖いもんは怖い。
大きく深呼吸をしてオレは出来ると暗示を掛けてから、助走を着けるために少しだけ引き返した。
身体能力向上でも向こうまでは約3~4メートル。
下は暗闇。
いけるか?
ーーカサ……
「!」
後ろから変な音がして振り替える。
アシダカグモも子蜘蛛に見えるほどの大きな蜘蛛がオレのすぐ真後ろにおりました。
「ギャアアア!!!」
やめて蜘蛛やめて本当にやめて!!!!
ゴキブリよりも蜘蛛が怖いオレにとってソレは恐怖でしかない!!
オレは全力で走り出した。
出来るだけ早くこの蜘蛛から逃れるために。
しかし蜘蛛もオレの事を獲物だと思っているのか猛ダッシュで追い掛けてくる。
「やだ!!こっちくんなぁ!!!」
迫る崖、しかし後ろには蜘蛛。
考えるまでもない!
オレは思いっきり跳んだ!
体が宙に放り出されたとき、オレは大事なことを思い出した。
身体能力向上をするの忘れていた。
ーーガッシィッ!!
「~~~~ッ!!」
ギリギリ届いた岩肌に必死にしがみつくことに成功した。
蜘蛛はどうしたのか?止まったのか?
でも今はまず身の安全を確保せねば!!
短剣を取り出して、岩肌の突き刺せる箇所に刺しながら何とか登っていく。
山式シャトルラン中の崖よりもキツいが、アレを経験していて良かった。お陰で何処をつかめば登れるというのが何となく分かる。
「はぁー! 助かった……」
上まで登りきり、恐怖で震える腕を叩いて紛らわしながら後ろを向くと、向こう側にいるはずの蜘蛛の姿が無くなっていた。
もしかして落ちたのだろうか。
「まぁいいや」
追ってこなければいいんだ。