ハンター試験.9
ジリジリと後退しながら呼吸を整える。
実は前から考えていたが、実践をしたことがなかった技がいくつかある。それを今ここで試す。
(本当は練習してからの方が良かったのだが、こういう時こそ完成したりするからな)
大きく息を吸って吐いた。
その瞬間、オレは身体能力向上と、纏威を同時に発動させた。
ザラキとの修行中。
一度だけこの身体能力向上を発動したことがある。
その時ザラキに、お前もうそこまでそれを操れるのなら纏威習得まではすぐじゃないか、と言われた。その時は訳が分からなくて首を捻っただけだが、最近になって思い付いたことがある。
これ、今まで魔法だと思っていたのは実は氣の一種だったんじゃないか、と。
纏威は体の内にある氣で体の外にある魔力を巻き込む技だ。
今までは体の一部、腕だけとかの部分発動をしていたが、それを全体でやったらどうなるのか。
まだまだコントロールを仕切れていない部分もあって不安はあるが、今この状況を打開できる方法があるのなら、きっとコレだろう。
『ガルシュ!!』
ライオンが爪を振り立てて襲い掛かる。
だが、もうオレは大きく上に跳んで回避していた。
壁を蹴り、風を読み体を風に委ねて加速する。
風で揉みくちゃにされつつも何とかバランスを取りながらライオンに向かって雷の矢を射る。すんでで気付いたライオンの脚を掠めた。
『グルオウッ!!』
ライオンの姿が掻き消え、真横に現れた。
転移の速度が上がっているが、それはこちらも同じ。すぐさま空中で身を捻り攻撃を回避すると、短剣に意識を集中する。
刃に魔力を乗せ、長く鋭く魔力の形を意識する。
雷の矢と同じだ。
性質はそのままに形を作っていく。
すると短剣全体に電流が走り、刃から長く白い物がバチバチと激しい電気をまとわり付かせながら長くなり、遂には立派な一振りの剣へと姿を変えた。
毒針の尾が迫ってくる。
すぐさま剣を持ち変え、尾に向かって雷の剣を薙いだ。
『ギャアアアアアッ!!!!』
ライオンが凄まじい悲鳴をあげる。
切り落とされた尾が風に乗って飛んでいき、もう一度斬りつけようとしたところでライオンが転移した。
「え"!?」
ガクンと体のバランスが崩れ、落下した。
突然風が消えたのだ。
「どわっ!」
何とか体制を整え、上手く転がって衝撃を逃した。
相当な高さにまで上がっていたからな、危なかった。
ライオンが低く唸り声を上げている。
目はこちらを睨み付け、牙を剥き出しているが、あまりの痛みに動けないようでいた。
よく見ると矢が掠めた右後ろ脚を引き摺っている。
そろそろ決着か。
オレも左腕の痛みが酷くなってきており、体のあちこちが纏威を連続で使った反動か激しい痛みが走り始めていた。
睨み合う。
手に持つ雷の剣が、バチンと大きく弾け、強く地を蹴った。
同時に地を蹴り迫り来るライオンを見据えながら、オレは身体に風がまとわり付くような錯覚を覚えた。
一歩、二歩と、恐ろしい程に遅く感じる時間の中で、オレはライオンの体の動き、全てを感じた。それこそ、ライオンがオレの何処を狙っているのかさえ。
ーー ヂッ
ライオンの鋭い爪が髪を梳く。
低くした姿勢から、攻撃を回避したライオンの瞳に恐怖が宿るのを感じながら、オレは雷の剣をライオンの胴へと力一杯振り上げた。
「!」
体に纏わり付いていた風が、剣の動きに合わせて吹き荒れた。
ライオンが宙に浮き、地面へと叩き付けられた。体に複数の切り傷を負ったライオンは意識を失っていた。
「これにて、ハンター試験を終了とさせていただきます。怪我の治療をした後に、受付へとお越しください。では!」
試験官が去っていく。
オレは次の挑戦を辞退した。
次はBランクのルツァに近い強さを持つ魔物が相手だ。
さすがにあのライオンでこんだけ怪我を負っているようだと、完全に勝てないだろう。ちなみに今腕も体も痛すぎて立っているのがやっとなので戦っている場合ではないと言うのが正直な話であるが。
左腕が真っ赤。
一応握れるが力が入らないし震えるからちょっとヤバイかも知れない。早くネコと合流しなくては。
振り替えると白衣の人が二人背後に立っていて、オレは本気でビビった。いつからそこにいた!?
「はい!では治療をさせていただきます!」
と、眼鏡の人。
「とうぞこちらへ!」
と、マスクの人。
「いや、そんな大したことじゃないので大丈ーー」
「いーえ!ダメです!細菌が入ります!」
「あなた細菌の怖さ分かってないね!下手したら腕が腐るから切り落とさないといけなくなるよ!」
ズズイと二人が詰め寄る。
しかも蓋方向からの威圧感のせいで逃げられない。
「さ!参りましょう!」
「参りましょう!」
両方からガッチリと腕をホールドされ、オレはズルズルと医務室に連行されたのであった。
ハンター試験はこれにて終了!!