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INTEGRATE!~召喚されたら呪われてた件~  作者: 古嶺こいし
第一章 ホールデンにて
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初対戦

 

 

 それからオレはウロと共に解呪方法を探して色々術を試し、その度に大ダメージを受けて寝込み、空いた時間はひたすら訓練所でストレス解消も含めて走り回るを繰り返した。

 完全に他の勇者達に置いていかれている感が半端ない。

 

 解呪によってダメージを負い、ぐったりしている最中に窓から訓練所を見ていると、他の勇者四人は魔法をガンガン放ち、隊長クラスの兵士とやりあっているのが見えていた。

 羨ましい。オレだって雷落としたり地面に流して広範囲攻撃とかしてみたかった。

 

「……はぁぁ…」

 

 ちなみにオレの魔法はいまだに静電気止まりである。

 溜め息しかでない。

 

 

 

 

 何となく他の勇者達に遭遇するのが嫌なので鍛練の時間をずらして行っていたのだが。

 

「よう、一般人A。お前魔法を使えないんだってな」

 

 よりにもよって、あのジャージの中二野郎に見つかってしまった。

 避けていこうにも向こうが意図的に進路を塞いでくるから、必然的に足を止める事になったのだ。

 シンゴは人をバカにした顔で言う。

 

「城内の兵士やメイド達が噂していたぜ。今回の勇者の中に勇者のくせして魔法を使えない、戦闘も出来ない、ただ飯喰いの奴がいるって。

 お前の事だろ?いままで一度も僕と合同訓練で会ったこと無いもんなぁ」

 

 図星だろ?と言いたげなシンゴに腹が立つが、悔しいことにだいたい当たっているので何も言えない。

 魔法は使えるが静電気だし、戦闘能力が無いのも呪いせいではあるが、それを言ってもなんだか言い訳じみている気がするし、恐らくこいつも「そんなのただの言い訳だろ?」と返してくるだろう。

 安易に想像できてしまうのが嫌だ。

 こうなってしまってはオレに出来ることはただ一つ。

 

「……関係ないだろ」

 

 と、めんどくさいからそう言ってさっさと自室に退散しようとした。

 こういう奴は下手に言い返せばもっとめんどくさくなる。

 この道は諦めて、神聖魔法が溜まっているから普段は避けているもう一つの皆から戻ろうと、シンゴに背を向けて去ろうとした時。

 

「いっ…!?」

 

 背を向け掛けたところで右腕を強く掴まれて阻止された。

 凄い力で腕がギリギリと悲鳴をあげている。しかも腕にシンゴの爪が食い込んでいて、激痛になっていた。

 人間、広い範囲の攻撃よりもピンポイント攻撃の方が激痛になりやすい。

 

「関係ないだろは無いだろ?僕ら同じ勇者なんだからさ。せっかくだし稽古つけてやるよ」

「いや、オレは、ーーッ!!」

 

 ギリリと更に握力が強まり骨が悲鳴を上げる。

 この野郎、腕折る気か!?

 

「遠慮すんなよ、勇者仲間だろ?」

 

 シンゴは笑顔だった。しかし目は笑っておらず、まさか断らないよな?と視線だけで伝わってくる。一向に返答をしないオレに痺れをきたし始めたらしいシンゴがじわじわと更に握力を増し、遂に骨から小さくミシリと音が聞こえた。

 これは受けないと本気で折られるだろう。仕方がないとオレは諦めた。

 

「わかった、受けるよ」

 

 不本意だけど、受けることにした。

 こんな事で利き腕を折られるわけにはいかない。

 

「受けたんだから早く腕をはな──」

「へっへー、じゃあ決まりだな。僕がお前のへたれた根性叩き直してやるよ!僕、お前な今の実力が分かんないからまず最初は試合だな!」

 

 ふざけんな、と言おうとしたのだが再び腕が悲鳴をあげたので言えなかった。問答無用かコノヤロー!!

 

 そのまま広場の真ん中まで引きずられるように連れ出されてようやく腕を解放された。

 その頃には締め付けられて血が止まっていたのか手の感覚が消えていたらしく、解放された今になって変な痺れが右腕全体を襲っていた。

 

(しかも力が入んないどころか動かないんですけど、どうしてくれるんですかこの野郎!)

 

 プランと肩にぶら下がってるだけの存在に成り果てた右腕を左手で擦って回復を試みたが、どう考えても間に合いそうにない。

 現にどう見ても両手持ちの木剣をオレに向かって放り投げてきた。

 

「ほら、お前の木剣だ」

 

 足元に落下した木剣を左手で拾い上げる。

 やはり両手持ち用の為、重い。最近筋トレしていたとはいえ、果たして片手で十分に振り回せるのか。

 

「なんだ?どうしたんだあの二人」

「なんか勇者様同士で模擬戦やるんだとよ」

「マジかよ、勇者様達強いからな!今後の戦闘の参考にさせてもらおう!」

 

 わらわらと野次馬が集まってきた。

 しかも頼んでもいないのに円状にオレ達を取り囲んで舞台を作り、審判役まで出てきた。

 本当にやめて!オレ弱いから!参考になんてしなくていいから!

 

「お前全然鍛練してないみたいだからハンデをやる。僕に一発でも攻撃与えられたらお前の勝ちだ!一般人Aにはこれ以上ないくらいのハンデだろ?」

「一発か」

「一発だ、なんなら二発でも良いぞ!」

 

 素晴らしすぎるどや顔のシンゴが目の前で木剣を軽々と振り回す。

 風切り音が鋭い、当たれば骨折れそうだな。

 あれ?オレ腕折られたくないからって受けたのに、これって本末転倒じゃね?

 

「あーもう、いーや。頑張ろう」

 

 何でもいいからどうにかして一発当てて部屋に戻ろう。

 じゃないと解呪の時間に間に合わなくなってしまう。

 

 しかし、どうしよう。

 左手で木剣を見よう見まねで構えて、今真剣に逃亡の作戦に頭をフル回転させた。

 身軽さと脚には一応自信があるが、周りには兵士達で壁が作られていた。

 前方にいるのは背の高い位の高そうな兵士達、その後方に位の低そうな兵士にさらに後ろに見えないと言いたげな青年兵や少年兵が取り囲んでいる。

 

「………」

「なにぼさっとしてんだよ、始めんぞ」

 

 シンゴの言葉で前を向く。シンゴは木剣を中段に構えていた。

 とりあえず一発当てれば良い。細かいルールは指定してこなかった。なら、オレのこの作戦も有りだろう。


「さて、頑張るか」

 

 審判が右腕を高くあげ、勢い良く振り下げた。

 

「始め!!」

 

 一つ瞬きをすると、シンゴはすぐ目の前に迫っていた。、次の瞬きの前に反射的に防御に走らせた左手の木剣が上段から振り下ろされた攻撃によって叩き折られ、その流れのままに引かれた木剣が突き出されオレの腹部にめり込んだ。

 

「…グッ!!」

 

 腹からせり上がる物を無理矢理飲み込んで生理的な涙で滲んだ視界の先で笑うシンゴを見据える。

 どうだ?という顔。そうだな、さすがは勇者様だ。


 だが、こちらにだって意地がある。オレは何とか意識を保ち、倒れないように体を叱咤した。

 

「ふんっ!!」

 

 意地で後方に突き出した足が地面を捉え足の裏が地面との摩擦で燃えるように加熱される。

 激しく咳き込みながらもオレはシンゴを睨み付けた。

 

(やっぱりキツいな、だけど……)

 

 痛みは薄い。ダメージは消して小さくないけれど痛みが薄い理由はオレをブチギレさせたからだ。

 きっと今はアドレナリンがドバドバと放出されているのだろう。

   

「おお!あれを堪えた!?」

「さすが勇者様だ!」

「しかし、木剣は…」

 

 どうにかして一発痛い目見せてからの逃亡作戦を結構するために頭を切り替えた。

 正面から行ってもオレの力では力で叩き伏せられるだけだ。なら、この場を利用する。

 

 踵を返して後ろの兵士達の中に紛れ込む。

 オレの装備は兵士達と同じものだったのと、あまり目立つような装飾も着けていないので溶け込むのは朝飯前だ。

 

「あ!お前逃げんのか!?卑怯だぞ!!」

 

 円の真ん中でシンゴがわめき散らしているが、無視。通りすがりざまの兵士の手から木剣を奪い取り、砕けた木剣は捨てた。

 人混みの間からシンゴの左後方まで回り込むと、身を低くして突撃を仕掛けた。

 

「!?、な…っ!」

 

 懐まであと少しというところで気付かれ、シンゴが振り返りながら木剣を横薙ぎした。

 しかし、あらかじめ身を低くしていた為に横薙ぎされた木剣が頭上を素通りする。


 うん剣筋見えなかったし、当たってたら頭スポーンだった。骨折る気どころか殺す気だよね。

 だけど、今ので当てられなかったのが運の尽きだ。


 振り切ったシンゴがしまったという顔をした。

 あんな本気で振ったら途中で止まれないし、振り切った後の切り返しは難しい。おまけにオレはすでにお前の懐の中だ!

 

「勇者様!」

「!?」

 

 だが、シンゴもそうやすやすと攻撃を受けてやる気はないらしい。

 目の前に光の塊が突如出現した。

 塊は密度が濃く、それでいて光の粒が高速で乱回転をしていた。濃い、濃い、濃密な魔力の塊。

 

「吹き飛べ、《風乱舞(フウランブ)》」

 

 それが目の前で、弾けた。

 

 

 

 


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