純粋の魔力
ザラキのいう修行は、特殊だった。
岩の上に座り、薄目を開けて辺りに漂う魔力をひたすら見詰めるだけ。
言うのは簡単かもしれないが、これ、思った以上に難しかった。
普段から見える魔力は白か黒かの色が付いている。ザラキはそのどちらでもない魔力を見付けて視線で追い掛けろという。
全く分からない。
ていうか、夜だからなのか山の上だからなのか魔力が見付けられない。牢の暗闇の中でも分かった魔力が見えないとか、どういう事なのだろう。
見えるのはただの風景。
夜目のせいで灰色の風景。
知ってたか?夜だと色が分からないから明るいか暗いしか無いんだぜ?
そんな隣でネコはずっと何かに耐えていた。
しかも体がぼやけていて凄い心配。助けてやりたいが、気がそっちに行くとザラキに頭を叩かれる。なんでバレるんだ。
結局、2時間そうしていたが分からなかった。
「どうだ?なんか見えたか?」
「なんも見えませんでした…」
「まぁそうだろうな」
「え?」
ザラキが笑いながらルキオを見詰める。
「ここは龍の縄張りの丁度境目のところでな、魔力が極端に少ないんだ。というより、国境の山頂を境にして魔力を土地から物凄い勢いで吸い上げて国を覆う風に変換しているんだ。見えないのは当然だ、見える程の量がそもそも存在していないんだから」
だから、とザラキが続ける。
「ネコの魔力も例外無く吸い上げている。じゃあライハ、次はネコを見てみろ、いつもより集中して、だ」
言われた通りに見てみると、ネコの体から立ち上る靄が見えた。それも白でも黒でもない靄。
ネコの体から一旦離れかける靄は途中で向きを変え、再びネコに収まる。しかしたまに向きを変え切れないで空中に放出され消えているものもあった。
「靄が見えます」
「色は見えるか?」
「いいえ、見えません」
「これが純粋の魔力だ」
純粋の魔力?
「本来魔力には色は無い。しかし魔法によって属性に偏りが出ると色が付く。黒や白にな」
「属性っていうのは」
「聞いたこと無いか?神聖属性や混沌属性」
「!」
それは前に聞いたことがある。
ウロが反転の呪いを説明するときに。
「前、反転の呪いは神聖属性を魔ノ者が持つ混沌属性に変えると聞いたことがあります」
「間違いではないな。ではまた問題だ。神聖属性と混沌属性の違いは?」
「違い」
それも考えたこと無かった。
なんだろう、混沌属性は黒い光で、魔ノ者が持つ属性。神聖属性とは真逆のもので、オレは呪いのせいで黒い光の側だと体調が良くなる。
単純に考えるなら、ゲームとかでいう光の属性的なものか。いや、でもまて、本当にそうか?
待てよ、思い出そう。
黒い光をどんなときに見た?
まず、ルツァ・ラオラの時だ。あの時はノノハラの煙で怪しいが黒い靄が見えた気がする。後は、シルカ村で一瞬見えて、そういえばルツァ擬きの角から立ち上ってた。
そしてユラユの魔方陣。あれ?そういえば目隠しの魔法は白だったな。
「んーー?」
よく分かんなくなってきた。
「………、今までの経験から得た推測で良いですか?」
「いいぞ」
「黒い光っていうか靄の側では人がとても具合悪そうにしてました。何て言うか、見てて不快を感じたっていうか。これ、黒いのはもしかして地面の裂け目から出てきた靄ですか?じゃあ、えーと魔力中毒を起こしやすいやつで、逆に白いのは回復を促すみたいな」
ニックは耐性がなんたらとかで大丈夫そうたったけど。
「だいたい当たっている。黒いのは攻撃性とか癒着、あと汚染の性質を持っている。実は呪いの類いはこれを纏っているものが多い。あとは濃度が高いんだよ、魔力の。重いっつーか」
「へぇ、ヘドロみたいですね」
「そう、まさにそんな感じだ」
「おお、イメージしやすい」
悪魔とヘドロ。うん。しっくり来る。
オレがそれで回復するのは嫌だけど、それは仕方ない。
「白いのは回復、分離、洗浄や能力補佐の性質を持っている。あと軽い。吃驚するほどな」
「ほう」
「しかし面白いことに、白いのは元々黒いものなんだぞ」
「マジですか!?」
「おう。それが世界樹の根に吸い上げられて空で雲になり、純粋の魔力を含んだ雨となって落ちてくる。雨のとき精霊が多いだろ?それのせい」
納得した。
確かに精霊を見掛けるのは雨上がりが圧倒的に多かった。
「色付きの魔力は世界樹で均衡が戻されて色が消える。ジュノに行くときは樹を見せてもらえ、面白いの見れるから」
「?」
「で、だ。その純粋の魔力は体に吸収しやすいし、なにより氣と調和しやすい。色付きのより感知しにくいが、コツさえつかめばすぐに集められるうえに こんなことが出来るようになる。…見てろよ」
大きく息を吸い、長く吐き出す。
そしてもう一度吸ったときにザラキは拳を握り締める。
強く踏み込んで大きく振りかぶった瞬間、ザラキの拳の周りが七色に淡く輝き、突きを放ったと同時に爆発音と爆風が発生して辺りに衝撃波を撒き散らした。
「! うわっ!!?」
そして遠く離れた場所に生えていたボンッと音を立てて木が吹っ飛んだ。
「と、少し調和を高めてやればこんなことが出来るようになる。これは習得がとてもめんどくさいし相性があるから誰でも出来るわけじゃねぇが」
ザラキがこちらを向く。
「これさえ習得できれば消滅の危機は完全に無くなるし、何より強くなれる。どうだ?やる気になったろ?」
そんなの見せられたらやる気になるに決まってる。
「頑張ります!!」