中二病少女の本音
「……はっ、何を言っている? 運命の歯車を司る私に……など存在しない」
「パラレルワールドの中山だったらあるんだろうな」
「言われちゃった」
成績優秀、スポーツ万能、頭脳明晰、容姿端麗。
漫画とかラノベだったらよくあると思う。
一見、大人しそうな風貌。顔だけ見たら清純な和風な感じなのだが、セミロングの髪が光沢のある綺麗な茶色なので、そこは洋という印象がある。
普通なら全く合わない。ハブとマングースくらい。
しかしこの少女は違う。和と洋が完璧にマッチした奇跡的な魅力を放っている。
そんなミラクル少女が俺の高校の、俺のクラスの、俺の隣の席にいる。ものすごく幸運……なのか全くの逆なのか俺には分からない。
俺の微妙な心境が反映されているかのように誰もがこの少女の席を狙ってるわけじゃない。
むしろノーセンキューか。
「どうした? 我に見とれて……はっ! まさか……私の中に流れる“滅びのウタ”があなたにも聞こえるのか……?」
こいつは中二病だからな。
「えっと、先生、今なんと?」
「……ああ、宮田礼司。お前に今日休んだ中山亜希子にプリントを届けて欲しい」
「いやです」
「たのむ」
「いやです」
「たのむ」
「……何でですか?」
もう帰ろうとしたところで担任に呼び止められ嫌な予感がしたんだが……これか。
担任は哀れむような眼差しで俺を少し見た。
いや、可哀想だと思うんならあんたが行けよ。
「席が近いから」
「中山の前の席の香坂もです」
「おまえとしか喋ってないし」
「事務的なことしか話してません」
「………」
よし、責めるチャンスは今しかない。
「先生が行かれてはどうですか? 先生が一番中山と話してますよ」
「事務的なことしか話してません」
何で敬語なの?
少しの間睨み合っていたが、やがて担任が何か思いついたような顔をした。
「あ、俺……職員会議だから! よろぴく!」
「分かりましたよ……」
「広いよ」
波のような形の大きな門。その先の泉がある庭をはさんで、お屋敷。背伸びしたり頭を横に動かしたりして奥を見ると、屋敷の玄関に二つの銅像があることが分かる。
これが、中山の家。
成績優秀、スポーツ万能、頭脳明晰、容姿端麗。の上にお金持ちか。どんな家系だよ……
この上ないカルチャーショックを覚えつつも、インターホンのボタンを押す。
「どちらさまでしょうか」
老人の声。執事か? ここまでテンプレ。
「中山亜希子さんのクラスメイトです。プリントを届けに来ました」
「……そうですか。ではこちらからうかがいますので、そちらで待っていてください」
「はい」
つまり取りに来てくれると。でも、庭を歩いてここまで来るのに五分はかかるぞ。老人には結構キツそうだな。やっぱりこっちから行った方がいいか。玄関のところで待っておけばいいだろう。
プリントが入ったファイルを左手に持ち替えて、門を押す。しかし、開かずに足が後ろに引きずられる。
まあそりゃそうか。簡単に開くんなら強盗とか誘拐犯が入りたい放題だ。
俺は諦めて、大人しく待つことにした。
だが。
「……今の光景、我の邪眼はしっかりと捉えたぞ」
……中山だ。
丁度良い。休んでいたこいつにプリントを渡せば用は済む。
「えっと、中山、俺プリント届けに来たんだけど」
「黙れ。貴様、我の聖域に忍び込もうとしたな! 人間よ……悪魔にたぶらかされてなお、ここまでおちぶれていたのか……」
あーあーあー。痛い痛い。
ええっと、これはつまり俺は犯罪者だと疑われているのか?
動揺が始まっている俺の心中なんて少しも知らない中山は突然左手を上げた。
「神に使わされたこの私が……聖なる光で貴様を断罪する!」
で、俺に向かって走ってきた。その顔は訝しげだが、少し焦っているように見える。
何? 戦うの?
俺……柔道経験者だよ?
「えっと、大丈夫?」
案の定、中山は背中から倒れた。足を引っ掛けただけなんだけど。一応手加減したんだけど、少しやりすぎたかもしれない。
そう思って声を掛けたが、中山は左腕をかばいながら立ち上がった。
「恐るべき力……これが因果律から外れし者の力か……この現世に本当に存在していたとは……」
「はあー」
通常営業だった。
「私には時間がない……このままでは邪神“セカイ”が降臨してしまう……仕方がない、最終手段、全ての光を堕天させる! ううっ! 感じるっ! 何という力だ、神の使徒の体を持った私でさえダメージを負うとは」
「………」
「ああ、宇宙が……聞こえる……くらえ、宇宙の力! アストロインパク」
「お嬢様! そこで何を!」
突然、到着した執事の怒声が響く。そしてボタンを押したのだろうか、そういう素振りを見せたあと門が開いた。
「お嬢様、この方はあなたにプリントを届けに来てくださったんですよ」
「えっ、そうなの?」
中山は驚いた顔をしてひっくり返った声を上げた。
「えっと、宮田くん、えっと、そのごめんなさい、怪しい人だと誤解しちゃった」
「はあ……いいよ」
同じクラスの隣の席だぞ。何で分からないんだよ。
ん? というか、何で中二病じゃないんだ? 執事が来た瞬間普通になったな。
よし、ちょっと確認するか。
「お嬢様……制服を着ていらっしゃるのですからお分かりになるでしょう。仕方ありません、どうでしょう、お詫びにこの方を屋敷に招待するのは」
「ええっ、えっと、それは、その、ちょっと……み、宮田くんも困るだろうし……」
「いいですよ、俺は」
「ええっ!? でも、やっぱり、ちょっと……」
やはり断ろうとする中山。今だ、チャンス。
わざとらしく大きな咳払いをして、二人の意識をこちらに向ける。
「ホーリーレイ……アストロインパクト……」
「わっ、分かりましたっ! 招待しますっ!」
やっぱり。身内……の範囲かは分からないが少なくともこの執事には中二病を隠しているみたいだ。
「うう、では……行きましょうか」
転がせば、面白くなりそうだ。
屋敷の中は、やはり広い。外見がでかいから当たり前なのだが。
はるか上の天井からぶら下がるシャンデリア。無駄にでかいし光っている。正面には吹き抜けの二階。そこに続く二つの階段。左右は無限かと思うほどの廊下。
呆然とする俺を、横から鼻で笑った声がした。
「ふふ、広すぎてびっくりしたんですか? 庶民ですね、あなたも」
嫌味か。多分、さっきの報復のつもりなんだろう。
「うん、広すぎて宇宙みたいだ。ああ……宇宙が……きこ」
「しー! ご、ごめんなさいっ!」
「どうしたのですか? お二人とも。先程から様子がおかしいですよ」
「いえ、何でも」
声が被った。
「私はちょっとこのお方と話があります。下がってもらって結構です」
「御意」
執事は中山の命令を受けると、一礼をして二階に消えた。
「えっと、宮田くん。私、学校ではその、ね、ちょっとあれっていうか」
「中二病?」
「そ、そんなはっきり言わなくても……」
ああ、面倒臭い。
「で、話って?」
「うん……私が中二病の理由を話そうと思って。
私、中学でいじめられてて……高校に入ってからはなくなったんだけど……でも、三年間まともに喋ったことなかったからどうやってコミュニケーションを取ったらいいか分かんなくて……」
「そうか、分かった。じゃ、明日学校で」
「うん。じゃあ学校で……ええっ!? 軽いよお!」
「……俺も中学は暗黒時代だ。ぼっちだった。お前とほぼ同じだ。けど、お前はスタートが遅れた。けどそんなこと気にするな。明日からちゃんと来い。普通で」
「で、でもいきなり変わったらみんな変に思うんじゃ……」
「だからそんなこと気にするな。気にしたら負けだ。それが嫌なら黒歴史を面白おかしく利用しろ」
「……」
「俺は帰る」
「……はっ、何を言っている? 運命の歯車を司る私に……黒歴史など存在しない」
「パラレルワールドの中山だったらあるんだろうな」
「言われちゃった」
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