099 朝
「……おはようございます、シルバさん」
「ああ……ひざ、痛くなかったか……?」
目を開けると、外はすでに明るくて。
俺は、ひざまくらされたまま寝ていたらしい。
「お気になさらず~」
いや、あまりにも気持ちよかったからつい、意識を俺は落としてしまったんだが。
どうすればいいんだろう? エスペランサはちゃんと睡眠をとったんだろうか。
「エスペランサ、体調は?」
「私も寝ましたので、大丈夫ですよ」
にこにこ、と幸せそうな笑みを浮かべるエスペランサの顔に、疲労らしき疲労の顔は見当たらない。
俺ははぁ、と息をつき手を伸ばし彼女の頭へ移動させる。
そのままなでつけると、エスペランサは恥ずかしそうで同時に嬉しそうな顔を浮かべ、俺の顔から笑顔も自然とこぼれた。
「さて、そろそろ準備していきますか」
「そうだな」
俺はまだ、エスペランサが俺と一緒にいて幸せかどうかはわからないが。
少なくとも俺は幸せなんだよな、まったく。
「どうしたんですか? そんなに覗き込んで」
「……心を読んだらすぐわかるだろ?」
「大好きな人に対して、そんな失礼なことしたくないですし……ね?」
ああーかわいい。
俺のキャラが崩壊の危機に瀕しているのが自分でもわかるが、彼女を一日中愛でていたい感情に駆られた。
これが試験の旅とかじゃなかったら、普通に旅行に向かっていたのに。
一時的に、レイカー家のことを忘れてしまいたくなる程度には、エスペランサが魅力的に思えてきてしまう。
「こんど、二人で旅行いこうな」
「……機会があれば、ぜひお願いします」
そんなことしなくても、いつでも世界中旅してまわれますよ、とエスペランサ。
しかし、そんなこと言われても困るのだ。
この世界では、俺は魔剣鍛冶になりたいなと思っているんだから。
「鍛冶師が本職になるのは、もしかしたらご隠居してからかもですよ」
「ということは、戦争とか起こる、ということか?」
俺が問いかけるが、エスペランサはあいまいに首を振った。
「戦争を起こすのは、たいていの場合は人であり神ではないのです。なので、私はどうもできません。……かろうじて予測できる、またはある程度操作できるのはスロツ=トールだけですね」
運命神の名前、すごく久しぶりに聞いた気がする。
間違いではないはず。
「じゃあ、希望神ホープの役割は?」
「……私は、英雄を作り出して世界の崩壊をなくすだけですよ」
でも、結局は英雄の行動次第なので。と悲しそうに笑うエスペランサ。
その悲しい顔は、こちらまでもそうしてしまいそうで本当にいきのどくな感じもしてしまう。
「あの……」
「ん?」
エスペランサが何かを聞きたそうな顔をしていたので、俺は向いた。
少し言いづらいことなのか、どうなのか。
「……きょ、今日はどうします?」
「どうするって?」
「……一日、休みません?」
……ふむ。
確かに、それはいいにくいな。俺は何とも思わないけれども。
あとで、先輩方に問い合わせてみるか。
「……もしかして、デート行きたい感じか?」
「あたりまえじゃないですか」
なら、ぜひ行こうかー!
本当に、俺のキャラは大丈夫なんだろうか。
俺自身、自覚はあるというのに崩壊を余儀なくされているようで戸惑っている。
「シルバさん、最近表情が柔らかくなりましたね」
「ん? そうか?」
「そうですね、転生したばかりの、なんていうか焦った感じがする表情ではなくなり。余裕が出てきたような気がします」
そうなのか?
特に俺は気にしたことがないけれども。
でも、俺の外見を一番よく知っているのはエスペランサだからな。
「……さて、行きましょうか」
「そうだな」