096 グロリウス
紋章の画像つき!
「シルバ君は、希望神の英雄になったわけだけど……。べつに今のところなにも変わりはないのよね?」
神殿を出て、約半日。
そろそろ夕暮れ、というころ。
もう少しで次の町、といったところでアイライーリス先輩が、こらえきれなかったように俺の紋章を指差して訊いてきた。
それにしても、この紋章はかなり目立つような気がする。
基本的に、黒と黄色で構成されているんだが、どうしてもこれは目立つ。
黄色と黒で警告色。おそらく黄色は光を表しているんだろうが、それでも目がちかちかする。
しかも、それは額全体を覆うように現れている。
希望神の英雄は、代々こんなに目立つものを惜しげなくさらしていたんだろうか。
「まあ、とにかく。どこかでバンダナとかを探さないと」
額を隠す何かを探さなければ。
少なくとも、俺はやっていられない。
「英雄はでも、俺は二の次にしたいんだがな」
「ん?」
「学業をちゃんとこなして、魔剣を鍛冶で創って、でいいと思うんだが」
元々、クレアシモニー学園に入学したのは、前世で最後まできちんとした教育を受けられなかったからだ。
平和なはずの世界だったのに、まさか高校最後の年に、国を越えた域の戦争が起こるとは思わなかった。
「ん、じゃあ、学園を出たらどうするつもりなの?」
卒業したら、か。
俺は、やっぱり魔剣鍛冶かなと考えて、エスペランサを見つめた。
この話題には、「我関せず」とでもいいたげな顔でスぺランサは首を振る。
神様は、正直どこに言ったって何とかなるからな。
まあ、俺が「希望神の英雄」になった以上、エスペランサが俺の傍にいてくれるんだろうとは確信に近い何かをもっているのだけれども。
「先輩方は?」
「私は、何もなければ冒険者になりたい、と思っている」
ヴァーユ先輩は、少々意外な答えを出した。
冒険者? と聞き返す俺。
と、先輩は決意済みの毅然とした目で「自分の可能性を試したい」と答えた。
俺の見解からは、普通に嫁いで平和な暮らしをするのかと思っていたが。
「私は、魔導関係の研究所に入りたいかなって」
「えっ」
「私、脳筋じゃないんだからね!」
アイライーリス先輩は少々頬を膨らませていたが、誰もそんなことは聞いていない。
魔導関係ということは、大体が魔導傀儡……つまりゴーレムの研究というわけか。
前世でいい喩えるなら、ロボットの研究というところかな。前世ではAIで感情を 生み出そうとしているが、魔導傀儡も似たようなものだ。
アイライーリス先輩も、美少女だから普通に嫁ぐのかと思ってた。
そもそも、この世界で可愛い人なんて大体嫁いでるし。
魔法に長けている人は、それだけに限らないということか。
「ところで、エスペランサちゃんは?」
「まだ何も、決めてないです」
何も決めてないっていうか、どうにでもできるの間違いじゃなかろうか。
まあ、さすがにここでいうのも野暮だから、何も言わなかったけれど。
アイライーリス先輩とヴァーユ先輩は、「まだまだ時間はあるから」と普通の後輩に対する対応をしていたが、二人がエスペランサの正体を知ったときどんな顔をするんだろう。
まあ、そんなことは起きないのかもしれないが。
そんなことを話しあっているうちに次の町へ到着した。
町の名前は「グロリウス」。
その言葉から来るイメージとたがわず、何処か透き通った印象を俺たちに与えてくる「中都市」だ。
「ここ、私の実家が近いな」
「そうなのか?」
ほう、ヴァーユ先輩はここらへんの出身なのか。
まあ、都市じゃなくて多少なりの私有地があるから、厳密にいうとここじゃないということ、なのかな。
「ここは私が詳しいし、宿屋は任せてくれ」
「ん、お願いします」
ここは、知っている人に任せたほうがいいだろう。
変になんでも自分でやろうとして、混乱を招くよりはマシだ。
「部屋はどうする?」
「昨日と同じ方法で」
エスペランサと俺、アイライーリス先輩とヴァーユ先輩。
正直な話、エスペランサと寝ていると自然にリラックスできる。
逆にいうと、アイライーリス先輩やヴァーユ先輩と一緒に寝ることなんかになると、俺は多分緊張で寝れなくなってしまうだろうから。
「むう」
少々不満げだったが、なんだかんだヴァーユ先輩はうなずいてくれた。
俺の今のところ、俺がそばにいてリラックスできるのはこの世界でたった2人だけ。
時間は、かかると思う。
「手分けしようか。アイラ、私と一緒に部屋を取りに行こう」
「俺とエスペランサはバンダナと、食事の場所の確保か?」
「ん、そうだな。ここで2時間後に集合、ということで」
今、俺たちがいるのは中心部から少々南にはずれた役所のひとつ。
確かにわかりやすいし、中心部からは徒歩10分ほどだから大丈夫だろう。
そうすることにしよう。
「ん、行ってしまいましたね」
「ああ、そうだな」
俺が、エスペランサの手を握ってやるとエスペランサは泣きそうな、嬉しそうなそんな顔を見せてきた。
今世での、彼女のパートナーは俺だ。
それなら、このくらいは許してくれるだろう。
「エスペランサ」
「はい」
「時間は、いくらでもある」
俺の言った意味が、エスペランサには理解できただろうか。
この世界で、ちゃんとした死に方をできたら、俺は神になれる。
ほかの英雄とは「決定的」な違いが、俺にはある。
まだ、いくらでも時間はあるのだ。
両側の下があいているのは仕様です!