095 誕生
起点なので少々短め
「シルバくん、その紋章なに?」
確かに、みんなの場所に戻ればわかるとは言われたがさすがに早すぎないだろうか。
アイライーリス先輩たちの前にかえって2秒。
さっそく聞かれた。
「え。何かついてます?」
と、ここで神殿の全神御子が俺に対してひざまづく。
俺は半分訳がわかっていたが、それでも戸惑うと言うことだ。
案内をしている神御子は、その時の参拝客をほっぽりだしているし、掃除中の神御子も掃除なんて二の次というような顔でこちらに頭を下げる。
「鏡、いりますか?」
すべてを知っているエスペランサが、携帯していたであろう手鏡を俺に渡す。
額には、確かに紋章があった。
なんて言えばいいのかわからないが、星と逆星を重ね合わせたものに、翼が生えているような、そんな感じがする、
「それ、英雄の紋章じゃない?」
「そう、ですね」
グロウ・レイリュさんは「まさか本当に」と言ったような顔で俺を見つめる。
残念ながら、事実らしい。
一体どういうことなんだろう。
「でも、周りに希望神はいらっしゃいませんね」
白々しいぞ、エスペランサ。
すごく白々しい。
「そうですね、でも時間がたてば現れてくれるでしょう」
それでも、グロウ・レイリュさんは落ち着いていた。
今世に英雄が現れたという、興奮もあるのだろう。
同時に、この世界がどうなるかわからないと言うこともあるのだろう。
しかし、それでも。
彼女の顔は希望に満ちているのだ。
……そんなに、期待されても、何が出来るかわからないがな。
俺はそんなことを思いながら、唖然としているヴァーユ先輩とアイライーリス先輩にウインクして、髪の毛で紋章を隠す。
「……こういう、ことだったんだ」
アイライーリス先輩は何か呟いていたが、よく聞こえなかった。
いったいどういう事なんだろう。
でも、大丈夫だ。
俺にはエスペランサがいる。
誰も怪しまない小さな少女は、最初から俺のそばに居てくれた。
だから、きっとこれからも、うまく行くと俺は信じている。
「グロウ・レイリュさん、ありがとうございました」
神殿から少し離れた場所。
俺たちは、神殿をあとにしようとしていた。
「いえいえ。すばらしい英雄になってくださいね」
何もしゃべらない先輩方二人。 さすがに驚きすぎである。
若干引きつつ、俺は二人の肩をたたいた。
一体、神託で二人は何を言われたんだろう。
何を言われたのかが一番気になるが、何もいってくれないと言うことは何か言いにくいことなんだろうか
「シルバくん、私、がんばるから」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
何をがんばるんだろう。
そうやってふくんだ言い方をされると、いろいろと憶測が浮かんでしまって自分の考えがまとまらなくなる。
「でも英雄、か」
なかなか、悪くない響きだな。
俺が前世でもらえなかった名前だ。
この世界で、それをもらってみるも悪くない。