094 神託
アイライーリス先輩が戻ってきた。
なんだかんだ、滅茶苦茶上機嫌に帰ってきた。
「ふっふっふー!」
「どうしたんだ、一体……」
ヴァーユ先輩は訝しげにアイライーリス先輩のことを見つめていたが、グロウ・レイリュさんに促されて中央部に入っていく。
エスペランサは、相変わらず俯いている。
「あの、彼女は大丈夫なんですか?」
うん? 彼女はエスペランサからあふれるオーラを感じ取れていないのか。
いや、俺は全くわからないけど。
俺から洩れ出るわずかなものでも、グロウ・レイリュさんは感じとっていたなら、希望神ホープそのものともいえるエスペランサのオーラは滅茶苦茶感じているものだと思っていた。
「ずっと歩いていたからな、疲れたんだろう」
俺はエスペランサの肩を抱き寄せて、逆膝枕をさせる。
うーとか、すーとかいいながらエスペランサは俺にすり寄ってくる。
かわいいなぁもう。
神のことをこういうのもどうかと思うが、まるで愛玩動物だ。
「大丈夫ですか?」
「はい」
エスペランサは今、ヴァーユ先輩と対談中だろう。
結局、アイライーリス先輩が何をしゃべったのか、知りたい気もするが少しまとう。
神殿内で神託の情報を漏らすのはよくないことらしい。
そばに神がいるからよいも悪いものないような気がする!
しかし、さすがに今はやめておくべきだろう。
好きかってするのはもうすこし、「力」を貰ってからだ。まだ慌てるような時期ではない。
「お、ヴァーちゃん帰ってきたね」
アイライーリス先輩の言葉を受けて顔を上げると、たしかにヴァーユ先輩が戻ってきていた。
ちょっとほくほくしている様子からして、何か安堵しているような気がする。
「次は私ですね」
そのまま入ってどうする!
神本人が神殿中央部に入っていきました。
もちろん、すぐに戻ってきた。
3分くらいで戻ってきたエスペランサは、俺だけにみえるようにウインクをして見せる。
その顔を見て、俺は少しだけ安心した。
そして、入れ違いに俺は中央部へ。
「なんていうか、うん、想像はしてたけど」
俺は、目の前に現れた本来の姿。
半透明だが金髪の美女を見つめて、ため息を吐いた。
「これだったら、別にあそこでいってもいいんじゃないか?」
『……ということは、もうわかっているのですね。話が早くて助かります』
「エスペランサ、俺を誰だと思ってるんだ?」
俺は首を振って、不思議そうに首をかしげているエスペランサこと、希望神ホープを見つめる。
「アイライーリス先輩が言っていた通りのことだろう?」
『そうですね、私は。神の身でありながら人間に最も憧れている神です。勿論シルバさんの魂を拾ったのも、転生させようと思ったのも私です』
やはり。……ということは、だ。
『今世の英雄を、シルバさんに任せてもよろしいでしょうか』
「ああ、分かった」
『二つ返事で応じてくれるとは、ありがたい限りです』
エスペランサは、そのホログラムのような半透明な体で俺を包み込むように、手を広げる。
その先に、何があるのかはわからないけれど。
きっと、なるようになるとは思っているから、大丈夫だ。
『これで。……貴方は、龍眼族であるとともに【絶越種】。その力は後々にわかることでしょう』
俺は、身体に何か違いがないか確かめる。
龍眼族の、鱗はいつも通りだ。
別に何ら変わった場所はないが。
『額、ですよ』
「額?」
鏡を見ればわかります、と。
半神態の希望神ホープは微笑んで、神託は終了となった。