092 神殿内
「さて、神殿にきたんだがこれからどうするんだ?」
「そうですね」
俺がエスペランサに問いかけると、エスペランサはそばにいた神御子に声をかける。
「すみません、神託をいただきたいのです」
「はい、わかりました」
神託? と俺が首をひねっているとアイライーリス先輩が説明をしてくれた。
さすがというか、なんというか。もうなにをいいたいのかはっきりしない。
「希望神ホープ様の神託は、一人一人に言葉をいただけるの。そして選ばれた人はこの世界の種族にとらわれない『力』がもらえる」
えっ。
ていうか、その神本人が俺の今目の前で、神御子と楽しそうに談笑をしているんだが。
うーん、『力』か。
俺の【引斥制御】はそもそもエスペランサ=希望神ホープからもらったものなんだが。
そんなことを考えていると、感づかれたのかエスペランサがこちらをむき、口を動かす。
声は聞こえなかったが、それは確かに「あんしんして」と言っていた。
そういうのなら、安心しよう。
「では、偶像の前に案内いたします。……その前にそこの龍眼族はこちらへ」
神御子に呼ばれ、俺はほかの人たちの見えない場所に連れて行かれる。
何が起こったのか、俺にはまったくわからなかったが、何か起こったらしい。
よくわからないけれど。
「この辺でいいでしょう。……シルバ・エクアトゥールですね」
「……ん、ああ」
何で俺の名前を知っているんだろう。
エスペランサが教えたっていう可能性もあるのだが、俺を見つめている神御子の目は、「すべて知っていますよ」と俺を見透かしているようだった。
「あなた、この世界の人ではありませんね」
「……いや、今はこの世界の人だ」
断言されたあたり、俺のことを知っているようだが。
いったい、どういうことなんだろう。
俺が転生者、といういみで「この世界の人じゃない」と言っていることは理解できたんだが。
「あなたの身体から、希望神様のオーラが僅かながら漏れ出ています。神託を受けることで人生が変わる場合がありますが、よろしいですか?」
「それはどういういみだ?」
「たとえば、私は神託によりここの神殿の神御子になりました」
神御子は、そう爆弾発言的な何かを口から発する。
「申し遅れました。私の名前はアリュレイ・グロウ・レイリュともうします。『グロウ』は神殿の神御子を指し、レイリュは神託によっていただいた名前です。グロウ・レイリュとお呼びください。」
つまり、名前の意味は「アリュレイ神殿の神御子であるレイリュさん」ということか。
ほうほう、でも俺とはそんなに関係ないな。
「で、俺の人生をかえる、とは」
「それは私には何とも言えませんが、戦争に巻き込まれたりする可能性も少なからずあります」
そのくらいはぜんぜんかまわないんだが。
別に大丈夫。全然大丈夫。
「神託をお受けになられるのですね」
「悪いようにはしないだろう、と思った」
エスペランサのことだ。
大丈夫、大丈夫。
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「シルバ君、神御子さんに連れて行かれちゃったね」
「そうだな。……龍眼族は何か特別なんだろうか」
ヴァーユウリンス・ヴァン・フロガフェザリアスさんと、アイライーリス・ホムラ・アマテノヴァルさんが、心配そうな顔でシルバさんの連れて行かれた方を見つめていた。
私は希望神、とはいえ。
今はシルバさんと一緒にいたいから、力を制限しているのだけれど。
シルバさんはすごい人だ。
神である私がそばにいれば、シルバさんの行動制限が多くなるかもしれないと言うのに私をそばにおいていくれていたし。
きっと、私の思いも気づいていてこんなことをしている。
「エスペランサ、さんだっけ。……何か知ってるかな?」
表向き、私はシルバさんと一緒にいるクレアシモニー学園の1年生だ。
神として天からのぞいて、一番楽しそうだったのが学園生活だった。
どうしても、それだけは今まで叶わなかったこと。
私は、別の神よりは人間に近いとやっぱり思われてる。
人に恋は、もちろんしてる。そして英雄として活躍させたあと、最終的には人と神は一生一緒にはいられないため別れる。
そして、数百年後。また同じことをするのだ。
いままでは、有限の命しかなかった現地人が多かったけれど。
今回は、ある意味無限の命を持つシルバさんだ。
「いえ、わかりません」
「そっか。……シルバ君とは、どんな関係なの?」
アイライーリスさんは、どうも希望神信者よりみたい。
きっと私のことは、このパーティの中では一番よく知っている。
だから、そんなに変なことは言えない。
「さて、どんな関係なんでしょう? 私もよくわかりません」
「そっか。……旅仲間ってきいたし、シルバ君のことよく知っているのかなとは思ってるけど、これからもよろしくね」
「よろしくお願いします」
シルバさんのことはよく知っている。
身体に含まれている成分の一つ一つも、そして彼の強さも、能力も。
私が拾って、私が転生させた人なんだから。