091 神殿
まだ夏と言うこともあってか。気温はそんなに低くなかった。
いや、学園のあるポラリスに比べれば遙かに寒い。
ヴァーユ先輩、アイライーリス先輩。そしてエスペランサにも防寒具を着させ、取りあえず大丈夫な俺は普段着で北上している。
「よくわからないんだが、レイカー領ってどのくらいの規模なんだ?」
「ポラリス100個以上? だっけ。もっと大きかったっけ」
アイライーリス先輩からとんでもない発言が飛び出たが、どうも山脈あたりを保有しているからなんだとか。
「ちょっと次の町に行く前、寄り道をしてもいいか?」
「ん? どうかしたのか?」
ヴァーユ先輩が、「ほぅ?」とでも言いたげな顔でこちらを向いているが。
俺は極力エスペランサの方を向かないようにしつつ、希望神ホープの支部神殿に行きたいことを伝えた。
「神殿? ホープ様の?」
「ん、ああ」
アイライーリス先輩は即オーケー。
どうも、人気らしいな希望神。
この世界の神話は比較的神様が人間的で、俺の元いたせかいだとギリシャ神話あたりになるのか。
「デメリットはないし、私もかまわないが……」
ちょっと釈然としない様子のヴァーユ先輩。
まあ、この場合はスルーで。
それにしても、アイライーリス先輩……、すぐそばにエスペランサがいるんだけど正体を明かしたら卒倒するんじゃなかろうか。
本当に倒れそうだな。
まあ、目の前に神が現れて動揺しない人はいないだろうよ。
俺も、転生するとき少々驚いた。
「英雄を生み出す神様で有名なんだよー」
「英雄?」
「過去の魔法大戦時、活躍した人のことを指します」
どうも、希望神は気に入った人に加護を与え、人外じみた力を与えては戦争を一刻も早く終わらせることに尽力していたという。
文献は数多く残っており、その殆どが女騎士の周りを飛び回る妖精の姿として絵に描かれている、と。
加護を与える人って、殆どが女なのか。
……あっれぇ?
「人間と恋をする神様としても知られてるよね」
「へぇ」
と、俺は何気なく会話に参加しないエスペランサに目を向けると。
エスペランサは、顔を少々赤くして「ぽっ」とか言っていた。
なるほど。
「恋をしたのは今までに3回で、全員が歴史に残っているすごい人、だよ」
「うむ」
これ以上はエスペランサが羞恥心で死にそうになっているから、終わらせよう。
「それにしても、シルバ君は龍眼族だから龍神アグルスを崇拝しているのかと思ったけど」
「特に特定のっていうのはまだないな」
「そうなんだー」
宗教的な戦争は今まで起こったことがないって。
……正直、前の世界よりもある意味では平和な世界なのかもしれない。
「でも、最近は戦争とかあるのか?」
「100年くらいはなかったはずだぞ。……最近、不穏なきもするが」
よくわからない。
いきなり戦争が起こったりするからな。
「そういえば」
「ん?」
「昨日、エスペランサと寝ていたシルバはなにもなかったのか?」
それか!
正直、何かしようと思った。
しかし睡魔には勝てず、ふたりして寝てしまったというのが真実である。
情けない話だけどな。
「普通に寝ました」
「そうなのか……」
ほっとした顔を、俺は見逃さない。
同時にアイライーリス先輩も、安堵したような顔ではぁと息をついている。
それにしても、エスペランサの寝顔は本当にかわいいな。
幼女神、最高。
「ここが神殿か」
一言で表そう。
圧倒的白さ。
汚れのない白いペンキの入ったバケツを、神殿の上からぶっかけたような感じがする。
荘厳な感じを漂わせつつも、やはり神々しさを感じる。
5段くらいの階段を上り、中にはいるとそこには何人の、異能族。
白装束と紺の袴を身にまとい、仕事をしている様はギリシャ系の神殿なのに、とシュールだが。
「あれは希望神系の神殿に仕える神御子です。神殿の神によって、袴の色が違います」
えっ。
全部袴なのか。
しかし、驚いているのは俺だけである。
ヴァーユ先輩もアイライーリス先輩も特に疑問を持っていないようだし、エスペランサはなぜだかふんぞり返っている。
いや、理由はわかるんだがな。