088 お姫様抱き
短い…
「なんていうか、全然【試練の旅】っぽくないな」
「ポラリスの中は近代的でどちらかと言えばファンタジックだからな、科学的にといったらおかしいだろうが」
「かがく?」
……なんだか、最近俺はぼろが出始めたような気がする。
そこで、エスペランサはすかさずフォローしてくれるのだ。
「ほら、シルバさんは龍眼族ですし、普通の人が知らない単語も知っているんだと思います」
「なるほど。……龍眼族には科学なるものが存在するのか」
納得はしてもらえたけど、正直たとえば械刃族とかどうやって動いているんだ?
械刃族っていうのは、俺はまだ直に見たことはないけれどエスペランサによると前世で言う《サイボーグ》的な存在らしい。
ロマンにあふれているあたり、いいね。
一部が魔導で動く機械で動いているらしい。
魔法ではなく魔導と言っているあたり、妙に引っかかる点はあるが、もしかしたら言い間違えかもしれないな。
「そんなことよりも先輩方大丈夫か?」
「へーきへーき」
アイライーリス先輩はそういうが、顔はかなりダメそうだ。
俺はあとどのくらいで『レジリナ』につくのか、エスペランサに訊いてみる。
「あと、2時間くらいだと思いますよ」
もっとも、このままのペースで行ければ、ですがと捕捉する彼女。
このままでいくには、やっぱり俺が負ぶってやったほうがいいんだろうか。
「負ぶうよりも――」
よっと、力を込めて、俺は彼女を抱き上げた。
アイライーリス先輩が顔を赤くするのも構わずにとりあえず進み続けることにした。
俺のやったことがお気に召さないのか、ヴァーユ先輩は怖い顔をしていたが気にしないほうがいいんだろう。
「――こっちのほうがいいだろう?」
ふぁ、と声を漏らす先輩。
まあ、こんな感じだろうとは思ったけど。
思ったよりも軽い、と言ったら先輩は喜ぶだろうか、怒るだろうか。
言わないほうが吉だ、やめておこう。
「何か、失礼なこと考えてた?」
「カンガエテナイ」
はっ、思わず片言になってしまった。
絶対に怪しまれたし、変な顔をされたけど。
決して、何も言われることはなかった、うん。
そのまま抱き上げながら1時間くらい経つと、安心したのかそれとも疲れからなのか、寝てしまった。
妙にイライラしているヴァーユ先輩と、少々複雑そうな顔をしているエスペランサを振り返り、あとどのくらいで着くのか訊いてみる。
「もう見えてきましたよ」
エスペランサの指さす先には、なるほどうっすらと町が見えている。
数か月前に俺がアイゼル・バラキオスとであった場所だ。
宿屋もあったし、おそらく野宿はしなくてもいいだろう。
女の子が多いし、初日から野宿というのも酷だろうし。
「ふにゃ」
「……」
おぉぉぉぉ、ヴァーユ先輩の顔が般若になっている。
怖い、正直すくみ上りそうになるほど怖い。
が、何も言わない。そこが余計怖い。
「……むぅ」
エスペランサも少々機嫌が悪いぞ……。
俺は観念したように、もういいだろとアイライーリス先輩を起こして立たせる。
「……シルバ君の腕、暖かくて気持ちよかったぁ。ありがとねっ」
寝起きの色気に、どぎまぎしたりしなかったり。
ヴァーユ先輩には凍てつくような、エスペランサからは神々しそうな鋭い目つきで睨まれたり。
踏んだり蹴ったりなんだが、俺は何か悪い事でもしたのか?
したんだな? わかったすみませんでした!