087 関係
「3人とも大丈夫か? まあ、エスペランサは俺は担ぐ程度のことをするが、な」
ということで、現在俺たち4人は『カエシウス聖王国』の最南端に位置する『レジリナ』に向かっている。
進んでいる場所は普通の公道だ。
まだ『都市国家ポラリス』の中心部。
近未来的な感じを漂わせながらもそのエネルギー源は魔法という、SFなのかファンタジーなのかわからない場所にいる。
ここは見慣れた場所のためか、みんなも特にきょろきょろする事もなく、順調に進んでいる。
アイライーリス先輩とヴァーユウリンス先輩は何だかんだ言ってお嬢様だから大丈夫かな? と俺は心配だったが。
どうやら、大丈夫らしい。ていうかラフな格好も実に似合っている。
「ん? どうした? 私の服に何かついているのか?」
「いや、大丈夫」
何が大丈夫なのか、自分で自分に問い出したいくらい不自然な会話である。
まあ、それも彼女がそれ相応に美しいことによる弊害ということで。
俺は深呼吸をしつつ、俺の隣で不安そうに俺を見つめているエスペランサの方を見た。
何か思うことでもあるのか。彼女は俺を見ては前に視線を戻し、そしてまた俺を見る。
「どうした?」
「いや。なんでも、ない、です」
顔を赤らめ、だれがどう見ても何かあるような表情で否定する少女。
と、ここでヴァーユ先輩が気になったように俺とエスペランサを見た。
「シルバとこの子は、どんな関係性があるんだ?」
「……ええと」
さて、どうしようか。
結構言葉に詰まった。
なぜなら、俺とエスペランサはそもそも何の関係もないと言えばないし、あると言ったら俺がこの世界に転生する前から関係のある人物だ。
「ちょっと特殊な関係で、今は言うことができないのです」
助け舟を出してくれたのは、エスペランサのほうだった。
最悪はあの能力を使うんだろうが、どうなんだろう。
幸いなことに、訝しげな顔をしながらもヴァーユ先輩は納得してくれた。
困ったのは、アイライーリス先輩のほうである。
「特殊なってことは、何か特別な関係でもあるんだぁ」
「……そうですね」
シルバさんがここに来る前から、私とシルバさんは出会っていましたから。
そんなことを真顔で言ってのけるエスペランサ。
その、「ここ」とはどこを指すんだろう?
この世界? それともこの国?
どちらにせよ、あまり関係ない話か?
どうも面倒そうなにおいがしてきたため、俺は昼飯をどこで食べるかという話題に転換させる。
そもそも、そんなに詮索されてもおれが好奇心に満ちた目で見られるだけなのだ。
前の世界で戦死し、この世界に転生するまえにエスペランサ=希望神ホープに特殊能力を与えられて今ここに至るなんて言ったところで。
戯言をわめいている痛い人か、電波系の痛い人か。
思い込みの激しいひと、程度にしか思われていないだろう。
「お昼ご飯かぁ。私はまだ大丈夫かな」
「しかし、これ以上中心部から離れたらこのあとまともな飯が食えないかもしれないぞ?」
少なくとも、今日は。
これから郊外に向うから、結構微妙だったりする。
荷物はできるだけ少ないほうがいいが、非常食程度の備蓄は必要なのかもしれない。
「そうだな。保存食……」
ここが本当に中世のような純ファンタジー世界ではなく、文明の発達している世界でよかった。
「先輩方に、なにかアレルギーとかはないのか?」
「「……あれるぎー?」」
この世界に、アレルギーという単語は存在しないらしい。
ふむ、では別の言い方にしよう。
「これを食べたら身体に異常をきたすとか、これは生理的に食べたくないとかっていうものは何か存在する?」
「ないね」
「私もないな」
ない、と。
なら、そんなに深く考えなくてもいいか。
ポラリスの中心部は本当に都会、である。
だから、ぼったくりなんてことは普通起こることのない。
どちらかと言えば、何だかんだで日本に似ているのかもしれない。
生活水準の高い、どちらかと言えば犯罪率も少ない平和な国家だ。
加えて資本主義。完全に日本かな?
「エスペランサ、何か食べたいものは?」
「そうですね……」
正直、私は食べなくても生活ができるのですけど、とエスペランサは俺だけに聞こえる声で言った。
が、この世界だと死にこそはしないが腹は減るらしく、やっぱり食べたほうがいいらしい。
神様って複雑。
便利だけど複雑。
「神様って、案外簡単になれる者なんですよ?」
「えっ」
なんかすごいこと言い始めたけど、本当に大丈夫だろうか?
神様は簡単になれる? 神様って、今からでもなれるものなのか?
……いかんいかん、「神様になろう!セミナー」的な、変なものを想像して吹き出しかけた。