085 出発準備
新章始まります!
「ええと、その魔剣は何ですか?」
エスペランサ、俺が差し出した剣を、一瞬で魔剣だとみぬく。
いや、さすがといったところか、神様だしな一応。
本当は、もうちょっとあとに渡してもいいんだが。今回のタイミングがあまりにも良すぎる。
そのため、俺は鞘の中に入った短剣を彼女に渡すことにしたのだ。
「ん、護身用のために持ったほうがいいと思った」
「護身用ですか? ……ああ、できるだけ使わないように、といっておりましたもんね」
ここは寮のなかだ。明日の朝ここを出発するため、俺とエスペランサは準備をしている。
旅は2回目だ。だからなんというか、微妙に手馴れている。
そう考えれば、今までの不自然な場所は全て、彼女が神様だったからだと理由づけられるのだ。
神様だから、龍眼族の知識を持っていても全く問題がないし、そのた諸々。
「これからは、苗字どうするんだ?」
「エスペランサ・ホープレイで行くことにしました。最初っからこれだとシルバさんのことなのですぐに見抜かれそうでしたし」
確かに、最初から「ホープレイ」という名前がついていたら俺は感づいていたのかもしれない。
本当は、「エスペランサ」という言葉が彼女の名前であることからすでに気づくべきだったんだろうが、この世界は前世の色々な言語を混成して単語にしたりとかよくあることだ。
そう考えると、一体なんのことを指しているのかわからなかったりとかする。
「んぉ、きいたぞ。出頭だって?」
と、ウスギリ・ゲンが部屋の中に入ってきた。
考え中でよかった、エスペランサが神だとかっていう話の時に入ってこられたら、エスペランサの記憶操作を使ってもらうしかなかったからな。
ちなみに、希望神ホープはどんな能力を使えるのか、俺はさっき帰り道に聞いてみたのだ。
『そうですねぇ、【時間干渉】、【記憶操作】、【変遷】、【神具創造】などですかね、私は希望神のため、ほかの神様よりも限定されていない漠然とした神なので、使える能力が多いのです』
なんていうことを言っていたため、彼女の能力は基本的に使わないことを約束させた。
俺たちの中で、信用できる人は確かにいるが。
たとえばヴァーユウリンス・ヴァン・フロガフェザリアス先輩やアイライーリス・ホムラ・アマテノヴァルを全面的に信用しているのかと聞かれたら俺は頭をひねるだろう。
「レイカー家か。一回だけ行ったことあるけどでかいな、あれ」
「あれ? ウスギリってそんなにすごい場所の人だったか」
「学園長が叔父、と言えばわかるかな」
あっ。
この一言で、分かってしまったあたり俺ももうだめかもしれない。
確かに、前世でもそういう場所にいたからなんだが、よくわかる。
この世界も血統主義か。
実力である程度は上がっていけるものの、血統を圧倒するためには一筋縄じゃいけないのかも、な。
「シルバさんの心配していることは、シルバさんが龍眼族であることによって、それは緩和されます」
「??」
エスペランサが、俺の心配事を察してフォローしてくれるが、それをきいた薄切りには不思議な顔をされた。
いや、なんでもないんですよとエスペランサは言い訳をするようにしてシルバに説明をする。
「ただ、シルバさんにもシルバさんなりに心配することがあるのです」
「まあ、この学園唯一の龍眼族だしな、色々とあるんだろうな」
ウスギリ、変な方向に心配してくれて助かったよ。
さすがに、俺が転生者だったとかいろいろと面倒なことは言いたくない。
ランをあんなふうにしちゃったし、ランの心が折れても仕方ないだろうな。
まあ、いいか、俺とは関係のない話だし。
「レイカー家の近くは特に寒いから、途中で防寒具を買ったほうがいいかもしれないな。今の時期はまだましだけど、夏であってもあそこは万年雪の範囲内だ。一年を通して寒い」
唯一の救いは、湿度が低いところだと説明してくれるウスギリ。
いや、ここにエスペランサいるから大丈夫なんだけど、とも思ったがせっかく親切心で話をしてくれているんだから素直に窮しておこうと思った。
エスペランサは、こくこくと頷きながらその話を聞いている。
「徒歩を強いられているんだったら森には入らないほうがいいかもしれない、そこには結構ヤバイ感じの魔物もいるし」
そこは気をつけないと。神様が一人紛れ込んでいるとはいえ、俺以外の3人は全員女の子だ。
俺が守り切れない可能性もあるから、魔剣を3本作ったんだし。
一つはさっきエスペランサに渡した短剣。投擲したら敵の急所に自動誘導するようになっている。
一つは俺専用。これは使うときに説明すればいいか。
そして、ずっと頼まれていたヴァーユ先輩用の長剣。
うむ、なかなかの出来だと思う。
「まあ、頑張りなよ」
「はい、ありがとうございます」
ぺこ、と頭を下げるエスペランサと俺に手を振りながら、ウスギリは自室に戻っていった。