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龍眼族の異世界魔剣鍛冶  作者: 鶴琉世乃
第1章:邂逅【encounter】
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008 戦闘

 とりあえず、俺は自分の膂力りょりょくがどれだけ強化されているのか、確かめることにした。

 動かない巨大熊の懐に走ってもぐり込み、左足に負荷をかけて右手を振り切ってみる。


 ちなみに、拳で殴るのではなく手のひらを固めて殴った。

 相手の硬さが分からない以上、手が折れてしまうと大きな損失になる。

 龍が熊に負けるとは思いたくないが、俺はこの世界に降りたって1日もたっていない。

 それどころか、半日もたっておらず力の使い方が分からない。

 そのため、今までの殴打で有効なのかまったく見当がつかないのだ。


「……あり?」


 パリン、とガラスが割れる音がした。

 しかし熊は、俺を見下したように見つめるだけだった。

 手を上に振り上げ、銀色に光る爪が閃く。


 俺は横にローリングしてそれを避けるしかなかった。

 スローモーション再生されたかのように、爪が俺の右横をすり抜けるのを感じた。

 一瞬の判断。雪原に深い爪痕が残ったのを考えると、避けなければ即死だったと背中に寒気が走り抜ける。


 さて、どうするべきか。

 熊は本格的に俺を、狩りの対象に入れたのか。

 目は爛々と光っているように感じられ、その視線は俺をはずれることがない。


 熱い視線は、女の子のみにしてほしいところだが。


 それならば、俺は【引斥制御グラビシオン・コントロール】を試すしかなさそうだ。

 やり方は希望神ホープが宣言していたように、記憶の中に勝手に埋め込まれていた。

 幸いにも記憶を辿ることが困難なほど複雑と言うこともなさそうだ。


『引力、または斥力を付与する対象を指定し、どこに作用するのかを指定し、力のレベルを指定する』


 対象は俺かそれとも俺の前に立っている巨大な熊か。

 作用地点は、どこを力の起点にするか。

 レベルは、斥力引力のレベル0を基準として、起点に対してどれほどの強さで押しとばすか、はたまた引っ張るか。

 レベルは30まで。30リミットに近ければ近いほど、その力は強い。



 という、たった3ステップの記憶。

 一見すると簡単そうに見える。しかし……。


「……やはり、起動しないか」


 俺は、あの巨大熊の正式名称を知らない。

 対象の本名、または正式名称が必要らしい。

 つまり、ある程度は相手のことを知らなければならないと言うこと。

 そう、それを知らない限り、俺は……。



《対象:自分 作用地点:上空10メートル レベル:引力グラヴィティ10》



 完全に自分を動かす方向に思考を移し替えていた。

 翼を持った感覚が、身体を心を走り抜ける。

 同時に俺は宙を舞っていた。



《対象:自分 作用地点:前方9メートル レベル:引力グラヴィティ15》



 風が、心地よく俺の身体をすり抜ける。

 加速しつつ、俺は拳を握り込んだ。


 威力は、速度によっても上昇する。

 なら、重力で加速させればそれこそ、威力は何倍にも増大されていくのではないか。

 目の前に、白い壁が迫る。

 氷という毛に覆われた巨大な熊が接近する。

 獣の目線と、俺の目線が交差する。












 ドサッと音がした。

 俺は血で濡れる手と、その手の中に握ってある心臓を握りつぶして、巨大な、白い亡骸を見やった。


 引力により加速した拳は、氷のように氷結していた毛を突き破り、皮膚も突き破って。

 俺は、無意識のうちに心臓を抜き取っていたのだ。


「……はぁっ!」


 俺は心臓を雪に捨てた。そこから、血が流れて雪原が桃色に染まっていく。

 無感情。獣を殺めたことに罪悪感も何も湧かない。

 感じたことは、ただ一つ。





 俺は、前世よりも弱肉強食の世界に来てしまったらしい。

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