078 救出
「お前、誰だ?」
「ラン・ロキアス本人を叩き潰しちゃったんで、代理としてきた」
ここは学園校舎の裏だ。
そこから少しだけでも学園から離れると、森があるため人は普通寄りつかない。
森には魔獣がすむと言われている。魔法でどうにかなるという問題じゃないものも住むと言われており、本当に寄りつかない危険地域なのだ。
俺は痛々しい姿で転がっている双子の姉妹と、それに取り巻いている10数人の男たちをみて、ため息を吐きそうになった。
これは、最悪の状態を覚悟した方がいいのかもしれないが、べつにしなくても大丈夫だろう。
見たところ、男たちにそこまで危ない人はいない。
「……ちっ、龍眼族か。……龍眼族!?」
「どうも」
俺はにやっと笑うと、相手に向かって一歩踏み出す。
と同時に、【引斥制御】を周りの人すべてにかけた。
下に。全く動けない程度で。
「ラン・ロキアスなんて必要ない」
「は?」
「あいつよりも、俺の方がどうみても強い」
何いってるんだこいつ、と彼らは笑っていたが。
地面にたたきつけられている状態では、それも様がつかない。
俺は男たちに選択を突きつけた。
「二つの選択を与える。一つは二人を解放して何もしない。もう一つは……分かるな?」
俺は簡潔に話を終わらせると、男たちの方にゆっくりと歩いていった。
正直、地面と人の引力を少々強くしているだけで、ゆっくりだったら起きあがることはできる。
その後に何が出来るのかは、少々疑問だが。
「お前、俺を誰だと思ってるんだ!」
「いや、俺よくわからない」
彼のわめいている話によると、元々俺が目指していた龍眼族自治区と同じ、『カエシウス聖王国』の何とかっていう貴族の4代目らしいけど。
それを考えたら、リンセルさんやアンセルさんの方が立場は上難じゃないかと思ってしまった。
こんなこと、してていいのか?
それとも、この学園は学園ヒエラルキーというのが存在するんだろうか。
「俺の一声で、お前の家をつぶすことも簡単なんだぞ!」
「すごく小物に聞こえてくるし、俺家族とかいないから」
この世界に家族はいないし、前の世界との未練はもうない。
戻りたいとも思わないし、俺は敗北したのだ。
一度失ったものを、無理に取り替えそうだなんて俺は思っていない。
失ったものは、新しいこの世界でもう一度作ってみせる。
「【龍化】」
俺はいったん閉じていたいわゆる覚醒状態をもう一度展開し、俺は万全の状態を整える。
常にオーバーキル気味でもかまわないはずだ。
たしかに最低限の力で敵を制圧するというのもいい策ではあるが、何が起こるか分かったもんじゃない状態で力を温存するのは、俺はいい案ではないとおもう。
それなら、圧倒的力押しであっても相手をつぶしにかかるべきだろう。
俺が【龍化】したと同時に、ほぼ自動的に能力が強化され彼らにかかっている重圧も。勿論強くなった。
それに膝を折る4代目を無視し、俺はリンセルさんとアンセルさんが動けない要因であった鎖を見やる。
「それ、さわっちゃだめ……触れた人に魔法を使えなくする効果があるの……!」
つまり、ここで適当に名前を付けるなら、『魔封の鎖』みたいなかんじのものなんだろう。
不安げに俺を見つめるアンセルさんと、リンセルさんにたいして、俺は笑いかけた。
「大丈夫ですよ」
「えっ」
「だって、膂力のみで握りつぶしますから。
力を少しずつ込めていくと、徐々に徐々に、とは行かずいきなりバキン! と鉄の棒がひしゃげるのではなく折れる音がした。
その思った以上の声の大きさに、リンセルさんとアンセルさんがびくっってなる。
膝を折るほどの重圧に耐えながら俺たちを見つめていたなんとかっていう4代目は、目の前に広がる光景を信じられないといった様子で見つめている。
「……それ、ランクの高い魔獣にも使える高級品なのに……」
「龍眼族には適わなかったわけだ。あきらめてもうちょっと高級品を買った方がよかったんじゃないか?」
……まあ、そんなものを買ったらそのまま地面にめり込ませてやるよ。
俺は鎖を外した双子の二人をくるくると回し、けがはないか確認する。
「あぅあぅ」
「おっとすまん。最悪の事態は回避できたようだな」
「……なんで、ラン君の代わりに?」
俺が叩きのめしちゃったから、とはさすがにいえないなここでは。
俺はあえて首を振り、彼女たちの質問には答えず先に避難させる。
そして未だ重圧と戦っている男たちを見やり、口を歪ませた。
一方的に男たちをいたぶれる。
誰も、俺を止められないだろう・
龍眼族の圧倒的種族値と、前世から引き継ぎさらに強化されたこの身体能力を見せてやる。
「さぁ、メインディッシュはこれからだ……な!」