077 龍VS醒
お久しぶりです。
「シルバ! おいシルバ!」
教室ではなく、中庭から俺は食堂に戻ろうとしていると、後ろから声が聞こえた。
振り向くと、そこにはランがいる。今日も起きないかと思ったが、起きたらしい。
少し注意して彼をみてみれば彼が今、自信に満ちていることくらいは簡単に判別できるだろう。
今までも充分強かったが、それとは比べものにならない。
「リンセルとアンセルが誘拐された」
「へえ」
「おい、何でそんなに無関心なんだよ」
何でって。
「どうせ、一人で来いって書いてるんだろう? そして俺に魔剣を創ってほしいと」
「ぐっ」
だいたいそういうことだろうとは思っていたため、ランが顔を背けてうなり声のようなものを出しても俺は何とも思えなかった。
こんなことしている暇があったらさっさと助けにいけよ。
「いや、シルバにも来てほしい」
「なぜ? 俺は彼女たちと何の関係もないし、二人でいったときにどうなるか分かったものじゃない」
そういった瞬間、俺の目の前には拳があった。
頬にクリーンヒットし、俺は派手に転がされる。
「お前、本気で言ってるのか……!」
「本気も何も、その通りの意味じゃないか」
俺には、ラン・ロキアスがなぜ怒っているのか理解できない。
と思えば、ランは凄い形相で俺をにらみつつ、つかみかかる。
「最低な奴……だな!」
「今頃そんなこと言われたくない」
俺は乱暴にランの腕を振り払うと、そのまま叫ぶ。
「【龍化】」
龍の爪。
鎧のような龍鱗。
そして長く伸びた尾。
【龍化】した俺に対し、ランは顔色を変えなかった。
彼は、嘲りを笛の如く口から漏らして俺を笑った。
「何顔真っ赤にしてるんだ?」
「それは俺の台詞だ」
そんな暇があったら、さっさと助けに行けよ。
きっとランには分かっていると思うが、今の俺は無表情だ。
彼に対する怒りは時が経つごとに、嵐のように襲ってくる。
しかし。それを表情に出すことは無いだろう。
「……仕方ない。お前を倒してから行くことにする」
「時間の無駄だ」
俺は目の前に迫った拳を、横に払って隙の出来た横腹に蹴りを入れる。
【龍化】は、見た目だけのはったりではなく防御・攻撃だけでなく速度まで強化される能力である。
そのため、彼が何か案を考えつくまで、彼の攻撃は俺に当たらない。
「このクソが!」
そこからは、粗野な取っ組み合いだった。
俺は無意識に、彼は意図的に。
蹴りや殴りに魔法を含ませ、威力は増していく。
「こんなことしている暇があったらさっさと戦いにいけや!」
「その前に、シルバを倒さないと証明できないんだよ!」
自分の強さが! とランは喉が掻ききれるほどの声で叫んだ。
その声は反響し、中庭から校舎まで届いて多くの生徒がこちらに目を向ける。
しかし、俺にもそんなことはどうでもよかった。
ランが行かないというのなら、俺が行くしかない。
さっさと沈んでもらおう。
俺は魔剣槍【刹那≠無限】を取り出してランのパンチの軌跡上に亜空間を生み出す。
亜空間から吹き出すのは、炎だ。
「がっ!?」
「お前が、俺に執着してリンセルさんたちを救わないと言うのなら、俺が救いにいこう」
俺はひるんだランに、容赦なくパンチをたたき込む。
いつもの数倍の威力。元々龍眼族は基本種族最強の膂力を誇る種族であり、一撃のパンチでどのくらいの位直があるのかすでに分からない。
そのとき、頭の中にとある言葉が流れ込んできた。
一回も使ったこともなければ、一回もみたことがないそんな言葉。
しかし、俺は無意識のうちに、それを唱えていた。
「ヴォリア・ズィオナッケ、アレス・ガイレム」
体の内側から、外に向かって。
心臓から、体の末端に向かって。
噴き出すように、力はあふれる。
「それ、なんだよ?」
「よく分からないが。……これでランを吹っ飛ばすのには充分すぎる」
拳は赤く、流血したように燃え上がっていた。
俺は躊躇なくランの頭をそれで殴り飛ばし、動かなくなったことを確認する。
そして、彼の手に握られていた脅迫状を手にして、目的地に向かった。
そのとき、木の陰にエスペランサとにた少女の姿があったようなきがしたが、錯覚……だろうな。
まるで、すべてをみていたかのように、でも、たしかに。
彼女は、そこにいたんだ。