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龍眼族の異世界魔剣鍛冶  作者: 天御夜 釉
第5章:覚醒【awakening】
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076 意識覚醒

ラン視点。

 ここは……どこだ?

 わからない、わからない。

 俺は意識を失ったはずだ。

 どこで? それすらも思い出せない。



 俺は、今全然知らないところに来ていた。

 いや、知っている。

 『ネフェリティスの森』……だ。

 俺がこの世界に生まれ落ち、リンに命を助けられた場所。

 セリシト魔法王国、王都サウザンドライオにほど近い巨大な森。

 ……さっきまで、クレアシモニー学園にいたのに、なぜ?


「……とりあえず、歩くか」


 わからないのなら、わかるまで、歩くまでだ。

 学園は遠いが、王都まで歩くのは数時間だけで事足りる。







 歩けども歩けども、森は出口を俺に指し示してはくれない。

 今なら、俺は……勝てる?

 何に?


 ガサッ……!


 後ろから音。


 俺は反射的に、後ろを向く。

 背後を取られると、戦いでは確実に不利になる。

 しかし、俺は言葉を失った。








 そこにいたのは、俺に似た容姿の人だったからだ。






 顔も似ている、さらに言えば体格すら似ている。

 男は、俺を見て俺に近づいてくる。


 不思議と、恐怖は感じなかった。

 闘わないといけない、というイメージもなかった。

 ただ、俺と似ている。同類のような気がして。


「……へー。君がラン・ロキアス。いや、紀伊きいあらしか。」

「……なぜ、俺の名前を知っている。」


 声は俺よりも、少し幼そうだった。

 しかし、それは何かを品定めするかのように、口調は淡々としたものだった。

 俺の転生前の名前すら知っているだと? ますます不思議だ。


 謎の少年は、俺を見てくすりと笑う。

 森は、音を失ったかのように沈黙している。

 そして、少年は口を開いた。


「……僕は何でも知ってるさ。君が日本人だったことも、3種族混血だと言うことも。アンセルと、リンセルさんとつき合っているということも。……僕は、彼女たち、彼たちの心の中で生き続けている。」


 その言葉に、思い当たる人物が一人。

 アンセルの心から離れない一人の男。





「……リュー・ウルガ?」

「そう。初めまして、僕の名前は零牙寺れいがでらりゅうだ。」









「……なるほどね。……僕と同じことをしようとしているのかい? ……言っておくと、歴史が繰り返すというのなら、この後君は死ぬ。」


 ……はい?

 いや、いきなり死ぬって言われて平然としていられないだろう。


「一応、予知は出来る。……残念ながら、すでにリンセルもアンセルも捕まっているようだね。」


 言葉は淡々とした、感情の込められていないもの。

 しかし、彼は両手を血が出るくらいに握りしめていた。


「また、僕を殺した輩たちのようだね。……さすが、実力さえあれば入学できる【クレアシモニー学園】だよ。……2年前に僕を殺した50人中、48人。」

「……俺は、そいつらに勝てるのか?」


 そんな事聞きたくなかった。

 俺の問いに対して、リューは首を傾げて見せる。


「五分五分、と言ったところかな。……今の君じゃあ、無理だね。……魔力と体力を著しく消費して、立つこともままならない君は、行ってもタコ殴りにされて死ぬ。……でも、それは君一人で行った場合だ。」


 リューが、ニヤッと笑った。

 その顔からは、何も読みとれない。


「僕が、君にこれから力を貸す。……君は、【光闇】属性を操るウェイカーになるんだ。」

「何だって?」


 それはつまり。

 あれ、どういうことだ?


「……簡単に言えば、僕が一つの人格として君と体を共有し、君のサポートをしよう。……残念ながら、君の身体を乗っ取るということは出来なさそうだが。」


 残念とか言うな。

 ……ビビるだろうが、ヤメロ。

 しかし……なぁ。

 そんな都合のいい話があるのか?


「さあ、どうする?」

「いや、その言い方は信用できない。」


 なぜ? とリューは小首を傾げた。


「人格との契約を取り消せるのは、身体の持ち主だけだよ。……僕は君に対して何も出来ない。……つまり、気に入らなければ切り捨ててもいいってことだよ。」

「そんなに単純明快なことか?」

「疑り深いんだね。」


 リューがため息をついた。

 そして、俺に向かって……。


「【光】属性最上級遠距離攻撃魔法、《波導球アーク・スフィア》ッ!」






 いきなり大技をぶっ放した。







「バカ野郎……!!!」

「当たっても傷一つつかないよ!」


 草木をなぎ倒して、誘導されているかのように俺について来る《波導球アーク・スフィア》を、必死の思いで逃げる。

 しかし、……当たった。


 でも、攻撃はダメージを与えるどころか、俺に体力と魔力を供給していく。


「え?」

「……僕はもう死んでいるからね。……魔力は全部君のものになる。」


 ……なんですかそれ。


「で、どうだい?」

「……まだまだ信用できない所はいくつかあるけど……スロツがでてこない限りは大丈夫なんだろうな?」

「スロツは僕の相棒でもあるからね。……さて、行こうか。」


 リューが俺に右手を伸ばす。

 その手を握った瞬間。















 俺の意識は覚醒した。

 起きあがると、いつもの清潔とした部屋だった。

 ……自宅、か。


「……うぅ。」

「ラン……っ!?」


 目を腫らしたリンが、抱きついてきた。

 しかし、その慌てぶりは尋常ではない。

 ……まさか。


「アンセルとリンセルは?」

「これ……。」


 まさかだった。

 ……リュー、お前の言うことは合ってたんだな。


『もちろんじゃないか、ラン。今、僕は君であり、君の絶対的な味方なんだから。』


 リンから差し出された紙には。


【アンセリスティア・フレイヤ・レイカーとリンセルスフィア・フレイヤ・レイカーは預かった。一人で来い。】


 というメッセージと、そして。

 場所が明記されていた。


「……行ってくる。」

「ダメ! ……絶対に殺される……っ!」


 リンが俺を制止しようとして、起きあがる俺を押し倒した。

 ……まさか、これに反抗も出来ないほど体力がないとは。

 でも。


「行かせてくれ……!」

「絶対に許さない。……だって、ランの代わりはいないもの。」


 ぎゅっと抱きつかれ、俺の頭は一瞬フリーズしてしまう。

 たしかに、リンが俺に思いを寄せていたくらいは知っていたが、なぜ今のタイミングで。


 すこぶるタイミングが悪い。


「……俺の代わりは確かにいないのかもしれないな。」

「だったら!」

「でも、リンセルとアンセルの代わりもいないよ。」


 リンの力が、抜けた。

 その目から涙が溢れる。……泣かないでくれ。

 俺のせいで、苦しまないでくれ。


「ランが死ぬのはイヤだ……。」

「死なないよ。……絶対帰ってくるからさ。」


 そういって、立ち上がる。

 ……よろけそうになったが、突発的にリューが体力を限界まで回復させてくれた。


『さあ、行こうか?』

「……一人で来いってなぁ……。」


 もう、一人じゃあないしな。

 振り返って、リンに手を振る。


 死亡フラグ、一応たててみようか。


「……行ってくるよ。帰ったら、また一年前みたいにデートにいこう、か?」

「ランと? ……いってらっしゃい。」

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