074 廃校舎
お久しぶりです。
復活。
「起きないね……」
「ああ、起きないな」
リンさん、一日中そばにいてもランは起きず。
リンセルさんとアンセルさん、途中から戻ってきて治癒系の魔法をかけるも効果無し。
時間経過を待つことにして、ランは安静にする事にした。
「で、どうする? できれば私が休みたいけど」
「……リンセルさんも、アンセルさんも学園に行ってていいよ」
「え?」
リンさん、こちゃあちょっと二人にヘイトをためすぎ、だな。
たしかに、ランとリンさんが一番一緒にいる時間が長いのに、リンさんからしてみれば横取りされたとか思っていてもおかしくはない、のか?
「私一人で充分」
「……ちょっと、なに言って……!」
烈火のごとく激昇しかけたリンセルさんを、手で制止したのは双子の姉であるアンセルさんだった。
アンセルさんはリンさんに心の奥から冷え込むような視線を浴びせながら、リンセルさんの方をみる。
「……ここは彼女に任せて、私たちは行こう」
「でも、お姉ちゃん……」
「いいから。……気にしないで、行こう」
そのまま、アンセルさんは一度も振り向かないまま、リンセルさんのてをひっぱって学園に行ってしまった。
ずるずると引きずられるリンセルさん、リンさんを睨みつけながらもなにも言わない。
リンさん、二人を見ることなくランの手を握る。
なるほど、これが修羅場か。
俺は妙に納得しかけながらも、リンさんにランを任せて部屋から出ていった。
「……はぁ」
「どうしたのだ? ため息なんかついて」
「……そりゃあ、ため息を付くことだってありますよ」
って、うわぁと俺は隣を見つめた。
もちろん、そこにいるのはいつもどおり堂々とした、美しい顔のヴァーユ先輩だった。
そもそも、リンセルさんとアンセルさんのそばに俺はいなくていいのか、という疑問が残るんだよな。
……あの二人、結構危なっかしいということは分かっているのだけれど。
俺が、それに干渉していいのかどうか、というものだな。
「ふむ。まあ、今日はそれでもいいんじゃないか? ……しかし、その双子、名前はなんて言うんだ?」
「リンセル・フレイヤ・レイカーさんとアンセル・フレイヤ・レイカーさんですけど」
「なんだって!?」
うぅ……大きな声を出してしまった……と反省したように俯いたヴァーユ先輩は、今までの凛々しさが一気に失われてただただ可愛かった。
……へえ、こんな表情もできるのか。
恥じらう姿は、……うむ、そそられるな。
「……はなす場所を変えようか」
「……あ、はい」
そういって、ヴァーユ先輩は俺の手をかなり自然な流れで握ってきた。
……その眼は、心なしか潤んでいるようにも見えて、いろいろとだめだ。
官能的すぎていきるのがつらくなってくる。
「へえ、こんなところに空き校舎があったんですね」
「そうだな、周りは森だし、近づく人も少ないが少し隠れ家的な雰囲気があっていいだろう?」
なにをしてもいいような感じがしてくるのは俺だけか。
……いや、さすがにそんなことはしないが。
いや、するのか?
知らない。
「……って、なんでここにベッドがあるんですか?」
「保健室だったからじゃないのか?」
いや、そういう意味ではなく、俺をなんで保健室に呼んできたんだこの先輩は!
……まあ、先輩にそういう気があると断定できれば、俺から仕掛けていくけれどな。
俺はヴァーユ先輩の、未だ離そうとしない手を見つめる。
……見つめていることに気づいても、離そうとしないあたりこれは当たりか?
それは俺の希望的観測であって、べつにそうでなくてもかまわないんだ……といっておけばいいかな?
「レイカー家の話をしようか?」
「そうですね」
俺は、そういいながら、ベッドに座ったヴァーユ先輩の右隣に座る。
……手は繋がれたままだから、こちらにしか座ることができなかった。
「……シルバ、いやがらないんだな?」
「嫌がる理由が見あたりませんから」
そうか……と、ヴァーユ先輩は笑った。
その笑顔は、なぜか、どこか寂しげだった。