070 龍化
少々遅れてしまい申し訳ありませんでした
風は、竜巻となって相手に襲いかかった。
ほかの人が、顔を背けて恐怖に顔を歪ませる中、私とヴァーちゃんはしっかりと眼をそちらに向けていた。
不思議と、恐怖心はなかった。
幾ら他の人に本気で向かっていっても、私たちを守ってくれる、と信じていたからかもしれない。
「……【狂気の凶器】というのは、どこにいったんですかね?」
シルバ君は、笑っていた。
あざけっていた。
偉そうに名乗った先輩に対して、軽蔑の笑みを浮かべていた。
「う、うるさい!」
相手は、完全に怯えきっていた。
間違って私たちに撃ってしまった、ということもあるだろうけど。
そもそも、それを【龍化】しているとは言え素手で受け止めて逆方向に打ち返したシルバ君に恐怖している。
確実に、勝負しようとしているけどこれはどうしようもないんだと思う。
シルバ君が、強すぎる。
なんて言ったって、今シルバ君は……。
シルバ君は、半龍なんだから……!
「畜生……!」
ライゼィスは、歯ぎしりをしながらシルバ君を見つめている。
当たり前だ。後輩の、バカにしていたはずの生徒にミスを庇って好きな人を守られ、しかもそれは攻撃をそらすのではなくそのまま180度向きを変えたのだから。
そんなこと、この学園で出来るような人はまだ1人もいない。
そもそも、素手ではね変えそうだなんてぜんぜんだれも思おうとしない。
「畜生畜生畜生!」
あ、暴走した。
初級魔法を、見境なく360度に撃ち出すアイギス・ライゼィス。
シルバ君は、人の被害が及ばない物を全て無視して、私たち観客への危害は全て取り払っている。
強すぎる。
なんで、ここまでシルバ君は人を守れる?
それが、シルバ君の強さだと……?
「……魔剣は、何かを護りたい、護るという力の権化だ。……それが俺に与えられた力なら、俺は神に命だって捧げてやる!」
シルバ君の周りに、金色の竜巻が。
それは、シルバ君を取り囲んで、さらに完全な半龍へと変貌させていく。
「【龍化】」
こうして、シルバ君は。
龍人になった。
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これが、俺の手に入れた力か。
ふむ、やはり力というのは、誰かを護るために使わないと意味がない。
ただ暴力を振るうだけなら、誰もをしのぐ強さなんて必要ない。
そこらへんの人をたたけるくらいの強さがあれば、それでいい。
「畜生畜生畜生!」
さっきから、この先輩はそれしかつぶやいていないような気がする。
呪詛にもにた、その中身のない言葉は、どのくらいの力を持つのか。
俺には分からないし、そもそも俺は手加減をする理由がない。
ヴァーユ先輩に手を出した。
暴発とは言え、明らかに傷物に出来るほどの威力だったのだ、あの魔法は。
幾ら醒眼族の魔法が不得手だとしても、魔法は魔法で。
攻撃魔法は、攻撃魔法に他ならない。
俺は、【刹那≠無限】を抜いて、後ろに円を描くようにして空間の裂け目を創る。
これで、俺よりも後ろに行った魔法は、亜空間を通ってライゼィス先輩の背後から、彼自身へと牙を剥く。
自分の放った魔法で自身を滅ぼせ。