068 自問自答
今週も頑張ります
よろしくお願いします!
「うん、今日も充実した一日だった」
今はすでに夜だ。そして俺は自分のベッドの上に寝転がっている。
頭の中で、先輩二人とのひと時を思い出しては、自然と顔が綻ぶ。
「……」
そこで思うのだ。
自分が二人の先輩に好意を持たれていながら、自分では何もできないのかと。
未だ、二人の先輩に愛情と言ったような明確な気持ちは備わっていない。
ただ、二人ともこちらが見とれてしまうほど綺麗な人だと分かった、だけである。
「甲斐性、ないんだよなこれが」
甲斐性、というよりは優柔不満なのか。
それとも、自分の未来に目を背けているのか。
鍛冶の道に、女は必要ないとも思っているのかもしれない。
……しかし、俺の目指す場所は魔剣鍛冶師。
汗だくになることはないだろうし、別に女遊びしても構わないような。
……うむ、しかしハニートラップというのがあるのか、大丈夫なんだろうか。
……精神的なことに干渉できる魔剣などは創れないのだろうか。
今度、試してみる価値はありそうだ。
たとえば、相手の思ったことが漠然とわかるような短剣、なども便利そうなんだが。
「あの、シルバさんいらっしゃいますか?」
「ああ、エスペランサ」
躊躇気味のノックが聞こえ、俺はドアをあけた。
目の前にいるのは、やはりエスペランサだ。
頬を少しだけ上気させて、心なしか顔も赤い。
何かいいことがあったんだろうか、それとも風呂上りか。
これは後者だな。
「何かいいことでもあったのか?」
「いえ、少し……好きな方とお近づきになっただけですよー」
実に幸せそうな顔だな、おい。
好きとかって、やっぱりはっきりしていたほうがいいんだろうか。
うーん、そこら辺はエスペランサに聞くべき話ではない、か。
「そういえば、シルバさんは今日、ヴァーユウリンス・ヴァン・フロガフェザリアス先輩とアイライーリス・ホムラ・アマテノヴァル先輩と一緒にいたんですよね? デートはどうだったんですか?」
おいおいおいおい、ヴァーユウリンス・ヴァン・フロガフェザリアス先輩とアイライーリス・ホムラ・アマテノヴァル先輩って。
略して言わないのか、エスペランサよ。
俺は返答に困り、適当に流すが。
エスペランサは、どうも簡単には下がってくれないようである。
「ヴァーユウリンス・ヴァン・フロガフェザリアス先輩もアイライーリス・ホムラ・アマテノヴァル先輩も、シルバさんのことを好いておられるのですよね?」
「た、多分な?」
二回繰り返されただけで、少し疲れてきた。
それにしても、ほかの女子生徒の名前を呼ぶとき、エスペランサの顔はロボットみたいに固まるんだな。
同時に、その時だけ声も淡々としたものになっている。
何かのスイッチが入った?
「この世界は、一人の雄に多くの雌が囲みこむ。そんなことは許されていますので」
「お、おおう」
「龍眼族にはそのような文化がないのですかね? しかし、龍眼族であっても、私たちは歓迎しますよ?」
んん?
今、何を言ったのかわからなかった。
しかし、俺が彼女に訊く前に。
エスペランサは、俺の部屋から出ていっていた。
「なんだったんだ」
俺は、目の前にいる誰かに語り掛けるようにして、呟いた。
しかし、その疑問に答えてくれる人は、いない。
「へえ、そんなことがあったのかー!」
彼の開口一言に、俺は頭を抱えたくなった。
完全に、相談する人を間違えたのかもしれない。同じ転生者だから真摯に考えてくれると楽観的に考えていた俺が馬鹿だったようだ。
「そういえば、お前はリンセルさんもアンセルさんも手に入れたんだっけか、ランよ」
「そうだねー。彼女たちは俺を俺として見ていなかったりとかするけど」
ランは、幸せいっぱいです、とでも言いそうな顔で笑って見せた。
少し腹が立ったが気にしないでおこう。
「1年の中で一番かわいい二人を手に入れた感想は?」
「えー、最高だな!」
こいつ、腹が立つな。
こほん、とランは少し気まずそうに咳払いをして話を続ける。
「それで、フロガフェザリアス先輩とアマテノヴァ先輩だっけ? 俺は話をしたことがないから客観的な意見しか言えないが、普通に考えたら高嶺の花っていうやつだろう?」
「ああ、普通なら」
今は昼休み。
食堂であり、俺はヴァーユ先輩とアイラ先輩の、ランはリンセルさんとアンセルさんの誘いを断って一緒に食べている。
ランも美少女二人の板挟みというのが疲れているらしく、意気揚々と俺の誘いに乗ったわけなんだが、まさかのろけ話を聞かされるとは思っていなかった。
「少しだけ、本当に思ったんだが。あの二人、何か心の中に闇を抱えているような感じがするんだよな」
「そうなのか?」
「なんか、死んだ元恋人的な人がいたんだとよ」
俺は彼の話を聞く。
ややこしそうな話で途中から聞くのは放置したが、一応聞いておく。
簡単に言えば、ランによく似た男のことが、もともとは二人が好きだった、と。
その男は殺されてアンセルさんはそれを忘れられない、と。
はいはい、なるほどわからない。
「まあ、なるようになるだろ。シルバも頑張れよ」
「ハーレム……か」
「そんな深く考えなくてもいいんじゃないか? 一人を切って一人だけを幸せにするより、二人とも幸せにしたほうがいいとはおもうが」
……こいつ、本当に元日本人か?
ありがとうございました!