064 種族無双
龍眼族は強い。強いてはシルバが強い。
最後まで読んでいただければ光栄です。
「先輩、ここらへんで……」
アイライーリス先輩は、魔剣を恍惚とした顔で見つめて、俺の話など聞いていないようだ。
まあ、使ってみるまで魔剣の能力なんてわからないのだが、俺の考えた能力は「発火現象」である。
それがどこまで反映されているか。ヴァーユ先輩がいる平和なときであればゆっくり検証したいところなのだが。
今はそんな暇がない。
俺はアイライーリス先輩の肩に手を置き、乱暴に元の世界へと叩き戻す。
「ひゃっ!?」
お、思ったよりも可愛い声が出たな。
「そんな場合じゃないですよ。早く探しましょう」
「あ、はい!」
まったく、どっちが先輩なのやら。
「……いた」
「え?」
「いました」
俺は体育館の中を指差した。
たしかに、ここからヴァーユ先輩と同じオーラの気配がする。
中にいるのはまたもや25人か。バラヌもこの調子ではまず間違いなくいることだろう。
「まさかこれって、もしかして……」
「どうしました?」
何かに感づいたようだ。アイライーリス先輩は、不安げな顔で俺を見つめると、その考えを口にする。
「これって。もしかしてエクアトゥール君を一方的に痛めつける為の物何じゃ……」
「ああ、それなら大丈夫ですよ」
俺には自信がある。
俺には龍眼がある。
使い方は分からないが、戦闘中はそれを起動させておけばいい。
全てを恐れさせる、この視線があればおそらくは大丈夫だ。
「念のために、先輩は外から様子を見てください」
「でも……」
「そうですね、俺がピンチだと思った3分後に突入をお願いします」
それでも不安げな先輩に、俺は魔剣を指さしながら言った。
「それがあれば、大丈夫です。貴女の、守りたいという心が貴女の強さになる」
俺はそれだけを言うと、体育館のドアを蹴って吹き飛ばした。
奥の方で驚いた声。あたりらしいな。
俺は魔剣鎌【刹那≠無限】を取り出し、ペンのように持つと中に突入した。
体育館には、ガラの悪そうな先輩からインテリ系で不敵な笑みを浮かべている先輩、その他諸々。
その一番奥に、焦ったような顔で俺を見つめているヴァーユ先輩の顔があった。
縛られてもなければ、特に拘束されていないようだが、なぜ逃げ出さないんだ。
「……来たか」
バラヌだ。ウスギリ・ゲンとは違い、微妙なオーラを放っている彼。
簡単に言えば、「その他」の分類だ。
「先輩、何をしているんですか?」
「ここで、決闘をしようかなと思ってな」
決闘、と言うよりは無双になるかリンチになるかのどちらかだと思うのだが、どうだろうか。
あながち間違ってはいないだろう。
「俺たちの勝利条件は、お前の戦意喪失。お前の勝利条件は……」
彼女にふれることだ、とバラヌは言い放つ。
おそらく、そこ全員を蹴散らさないといけないんだろうな、と理解した。
簡単な話である。ここにいるひとの個人情報から本名を抜き出す。
次に、【引斥制御】を使う……のは後だ。
「合図はこちらからでいいか?」
「どうぞー」
いつでも発動する準備はできている。
しかも、この【引斥制御】の能力。
魔法と言うよりは超能力の類だ。
「はーじめ!」
……すでに囲まれてました。
先輩方が雄叫びをあげて突っ込んでくる。
大体が「うおおおおおお!」とか「しねぇぇぇぇぇ!」とか。
たまに「きしゃぁぁぁぁ!!」とか訳の分からない声も聞こえるが。
《【引斥制御】発動》
「えっ!?」
「がっ!」
「うっ?」
先輩方は、さぞ驚いたことだろう。
走っていたら、足と地面が縫いつけられたのだから。
正しくは、重力が足に強くかかっているのだが、いきなりだったらそんなに変わらない。
動いてなかったインテリ系の先輩1人と、仰け反るように座っているバラヌ以外は地面に縫いつけられ動けなくなる。
まあ、インテリ系の先輩の名前は……イエロ。
ふむ、どうでもいいか。
俺はイエロ先輩に向かってダッシュすると、そのままの体勢から殴りかかった。
それを首を動かし避ける先輩。
俺はいったん引き、イエロ先輩の両手を壁に縫いつける。
「はっ!?」
「とどめ!」
四肢の自由を奪われ、抵抗の出来ない先輩の顔面をなぐって気絶させ、【引斥制御】を解除。
崩れ落ちる先輩1人目を最後までみること無く、次の標的へ。
「やっぱり、あのときに一発殴っておけば良かった」
「ほぅ……その拳がぐほぁ!?」
当たると思ったら大間違いだ、とでもいいたかったのだろうか。
いきなり当たっているんだが、どうだ?
まあ、龍眼族の膂力だ。
やりすぎたら死ぬため、もちろんある程度の加減はしているつもりだが。
「【地】属性上きゅっ!?」
【龍眼】、発動。
先輩の顔に目を向けると、、一瞬でその先輩は喉を詰まらせる。
そこまでに恐ろしい目なのか、この【龍眼】というのは。
俺はその威力に感嘆しながら、今し方魔法を詠唱しようとした先輩の頭を蹴り上げた。
「……はぁ」
俺は、倒れて動かなくなった先輩たちを背にしてヴァーユ先輩に近づいた。
もちろん、振り向くときに【龍眼】は動作を解除している。
さすがにもう一度彼女を怖がらせるわけには行かない。
「強いな、シルバは……」
ヴァーユ先輩は、俺をみて泣いていた。
真珠のような涙が、頬を伝って堕ち、服にしみこんでいく。
こう言うとき、普通はどうするのだろう。
しかし、俺は普通が分からなかった。
だから。俺は……。
彼女をそっと、抱きしめた。
「……?」
一瞬戸惑ったのだろう、ビクリと先輩は身体を震わせ。
ちょっとして、恐る恐ると言ったような顔で、俺の腰に手を回してきた。
柔らかい。そしてどこか儚げな体つきである。
出ているところもしっかり出ているが、その腕は細い。
完璧、という言葉が一番あうようなそんな体つきだ。
少なくとも、俺の好み的には完璧である。
「……落ち着きました?」
「……ん。もうちょっとだけ……このままでも……」
「大丈夫ですよ」
か細い声を出す先輩というのも、これまた一興あっていいものだな。
「----はぁっ!」
敵前の生徒を、エクアトゥール君から買い取った魔剣で薙いで吹き飛ばす。
やっぱりバラヌは見張りをつけてた。
彼は、このこともちゃんと分かっていて私に外で待つように言ったに違いない……とおもう。
二人して入って、もし外から見張りの襲撃があったら元も子もないからね。
この魔剣は、最初から私の為に創られていたかのようにとっても手になじむ。
自分の好きなタイミングで念じればそのとおりに強さを発揮してくれる。
最高だ。これ、思ったけど200,000,000イデアでは払いきれない代物かもしれない、と思ってしまうほどだ。
この強さの秘密は私自身の力じゃない。だからといってこの魔剣がすべての強さを司っているとも思えない。
私がいて、この魔剣が存在しているからこそ。
最強の力を示すというのは、本当に私が望んでいた剣だ。
……それにしても、私は「こんな魔剣がほしい」なんて一言も言っていないのに。
なぜ、あの後輩生徒は知っていたんだろう?
……まあ、いいや。
こっちも終わったし、ヴァーちゃんとエクアトゥール君もいい雰囲気だから、もう少しここで待っていよーっと!
ありがとうございました!
さて、ラストスパートです!