061 眼光
よろしくお願いします。
「……ねえ、リンセル?」
夜。
ラン君や他の人が寝静まった頃、私はお姉ちゃんにリビングへ呼び出された。
呼ばれた意味は解ってる。……あのことが、お姉ちゃんにはお見通し、というわけ。
「……なに?」
「……今日の行動は何?」
お姉ちゃんは相変わらず無表情。
でも、静かなる怒りが胸の奥に潜んでいるのは、分かってた。
「ラン君やシルバ君と一緒にいたらいけない?」
「……また、同じことを繰り返すの?」
そうお姉ちゃんは私に、目で語りかけていた。
その無表情に隠される、本心を。
「……あの人は、本当にリュー君に似てる。顔も、性格も。……あの強さも」
「でも、ラン君はリュー君じゃない!」
思わず、声を荒げてしまう。
彼と、ラン君は違う。
たとえ、すべてが酷似しても……。
「リュー君じゃないから、お姉ちゃんを選ぶとは限らない。……あのときだって、私が引いたのに……。」
目尻に涙が思わず、溜まってしまった。
こう言うとき、私はムキになってしまう。
……本気だから、よけいに。
「……確かに、リュー君には勇気がなかった。……でも、今回のラン君に勇気はあると思う?」
双子の姉妹、両方を選ぶか、ということを私に聞いていた。。
そう、一夫多妻制が許されている。
リュー君は、片方だけ選んだ。私を見捨てて……。
お姉ちゃんのプレッシャーに負けて。
そして……醒眼族に殺された。
「……私は、彼は両方とも選ばないと思うけど?」
無言で、目を細くして私に引けと言っていた。
……今回ばかりは嫌だった。
……絶対に引きたくないという気持ちが、私の中で沸騰しかける。
「そのときは、そのとき。……今年があの年だって分かってるからこそ、私は後悔したくない。」
お姉ちゃんが、目をさらに細くした。
「……そう。……なら、また勝負しましょうか。」
静かにそう呟き、お姉ちゃんは自分の寝室に戻った。
私は、放心状態になってソファにもたれ掛かる。
「……ラン君……?」
そして、ソファの上で睡魔に負けた。
特に何の理由もなく、俺は起きてしまった。
目を開けても、カーテンから零れるような光は感じられず、月の明かりすらないに等しい。
この学園に入ってからは初めてのことだろうか、夜中に急に目が覚めるというのは俺の中で結構珍しいことである。
「……はぁ」
自分の息が、心なしか浅いのを感じて起き上がり、簡単に上着を羽織ってキッチンに向かう。
ここは一度、水を飲んで気を落ち着かせるべきだろう。
しかし、リビングに差し掛かったところで俺は。
毛布を掛けてもらってソファーで目を閉じているリンセルさんと。
彼女の頭に手を置いたまま、まるで子供をあやすような態勢で寝ているランを見かけたからだ。
リンセルさんの美しさは、寝ていても健在だった。
むしろ、目を閉じていることによって幼げながらもわずかな色気と、それを包み込むような愛くるしさが新たに生まれているような気がした。
ランは……相変わらず腹の立つ、イケメン。
とにかくイケメン。何とかしろ誰か。
今殴って顔面を凶器に変えてやろうか、と思いたくなるくらいにイケメン。
……思いっきり殴りたくなった。今度こいつと戦う。
今決めた。
「……人の色恋沙汰に付き合うほど、俺の容量も範囲が広いわけじゃないんだよなぁ」
とりあえず、ランのところにも毛布をかぶせておく。
風邪をひかれたら困る。
戦闘狂のことだ、風邪をひこうが何だろうが戦いだそうとするだろうし。
色々と面倒なんだろうし。暴走とか、さすがにしないよな?
狂戦士になったりとかはしないのかね?
そんなことを考えながら、俺はリビングを後にした。
普通に水のむだけだったら数分とかからないのに、……やはり、人にお節介を焼くのは俺の性に合わないどころか。
時間の無駄だな。
「あ、あの……。大丈夫だった、のか?」
「気を失う前の記憶がないんですが、先輩」
俺、何かしてました?
そうヴァーユ先輩に聞く。
今は例によって工房棟。今は授業が終わり、囲いを作っていた男子生徒は先日俺が全滅させたためいない。
そのおかげというかなんというか、その結果俺と先輩の会話がこうやってして成り立っているのだから結果オーライ、という訳か。
正直、魔剣鎌を創ったところで記憶は途切れている。
あの時、何故俺は思い切った行動に出たのか。
全くもって不明。
「いや、何も?」
「そうですか?」
俺は疑問に思う。
先輩の目に、わずかな怯えが映り込んでいるのを感じ取って。
そのまま、口に出すことにした。
「ではなぜ、怯えているんです?」
「……うぐっ」
こっちは本音。別に意地悪をしようなどと思ってやったわけではなく、正直に思ったことを口にしただけである。
しかし、それに先輩が答える。
その前に。
アンセルとリンセルが、同時に俺を引っ張って彼女から遠ざけた。
「どうしたんだよ!?」
「シルバ君、自分の目をちゃんとみて!」
俺は、リンセルに渡された手鏡を覗き込み……。
「――ッ!?」
自分の目の、鋭さに思わず仰け反りかけた。
六芒星が白く映り込んだ黒かったはずの目は。
真っ赤に染まり、六芒星は金色に輝いていたのだから。
ありがとうございました。
前半部分は、拙作「異世界に転生したと思ったら、身体を再構築されt(以下略)」の物となっております。