057 魔武具
ついに来た。と。
よろしくお願いします。
「ヴァーちゃん? あの龍眼族の後輩は知り合いか何かなの?」
この学園に龍眼族、そういえば今年が初めてなんだっけ、とアイラが私に話しか
ける。
私とシルバ・エクアトゥールは、私とどんな関係なんだろう?
「……数日前工房棟を案内しただけだ。……それ以外は何の接点もない」
「でも、明らかにヴァーちゃんをよんでたよね?」
ふるふるっ、とアイラは女の子にしては短く、荒削りな赤い髪の毛を揺らしながらこちらを向いた。
その紅玉のような目には「助けにいかなくていいのか」という表情が含まれている。
……私は、親衛隊など望んだ覚えはないのだが。
いつの間にか私を崇拝する人が出来て。
バラヌが、すべて勝手に……ッ!
といけないいけない。自分の感情を制御しなければ……。
「……顔が、凄いことになってるけど大丈夫?」
「ああ……、一応様子だけ見に行くことにしよう……」
そうだね、それが最善っ!
アイラはそういうと、私を引っ張って彼等の後ろをついて行った。
アイラの追尾能力というのは、すごい。
簡単にいえば、『自分と自分にふれている人の気配を完全に消す』というもの。
それは彼女の技術ではなく、彼女の特殊能力なんだとか。
ちなみに、この世界で特殊能力を使える人を。
人々は、【卓越者】と呼ぶ。
「こっちこっち!」
どうやら、体育館の裏まで連れて行ったらしい。
クレアシモニー学園の体育館の裏は、少しばかり大きなスペースがある。
普通は何かを行う、ということはないが大体ならず者がそこで不正行為を行ったりする場所だ。
「……ッ!」
「がっ……!」
さすがにここまで近づくと、多くの男の怒号と身体に何かがぶつかる音が聞こえた。
奥がどうなっているかは分からないが、アイラはここで止まってと私に指示した。
「ここから先は、ヴァーちゃんを連れて気配を消すのは無理」
「……分かった。……しかし、すでに喧噪は収まっているぞ?」
アイラがしまった、とでも口に出しそうな顔をした。
あわてて私を引っ張り、さらに遠ざける。
私はエクアトゥールがどうなっているのか知りたいだけなのだが。
「このままバラヌのプライドを傷つけたら、ヴァーちゃんが襲われるかもしれないじゃない」
「そんなことはしないと……思いたいが」
「男はみんな獣なんだから!」
それ、腕獣族と掛けて言っているのだろうか。
確かに、バラヌは狼族の腕獣族なんだけれども。
少なくとも、野蛮なことはしないと……思いたい
……それにしても、エクアトゥールは大丈夫なのだろうか。
「……バラヌが出てきたみたいだね」
アイラの言葉を聞いて、体育館裏の方をのぞくと。
確かに、驕り高ぶった顔をゆがませた、狼族の腕獣族が逃げるように歩き去って行っていた。
彼自身に怪我は見受けられないが、そのプライドの塊のような顔は屈辱に歪んでいる。
「ありゃま、これは新入生が勝っちゃったのかな?」
「……とりあえず、もう彼の姿も見えなくなったことだろうし。現場に向かってもいいか?」
「いいんじゃない? ……でも、万が一のことを考えて武器は取りだしたほうがいいかもね」
万が一のことって、例えば何なのだろう?
龍眼族が暴走したり、とかか?
私は気になってアイラに訊いてみる。しかし帰ってきたのはため息。
「無かったらいいんだけど……、本当は、貴方に果たし状を渡しにきた……とか?」
……さすがに、無いなとは思った。
「……何これ……」
アイラが、目の前の惨状に絶句していた。
それもそうだろう。
24人の倒れた血だらけの男と、一人の口を押さえた龍眼族。
何が起こったのか、明確には分からない。
分かるのは、目の前にいるシルバ・エクアトゥールが勝ったということだ。
「……ヴァーユ先輩、来ちゃったんですか」
「……エクアトゥール……その手に持っているのは……?」
彼は、奇妙な物を手にしていた。
大きさはナイフ程度の物、しかしその刃は虹色に輝いており、どこか輝かしさを、そしてどこか恐ろしさをまとっている。
しかし、彼の意志なのか何なのか、それはカタンカタンと折れたりまっすぐになったりしていた。
「これ? ……魔剣鎌【刹那≠無限】っていうものです。急造で創ってみましたが、うまく行ったようで何より」
魔剣を……専用作業台無しで作り出す……だと?
しかし、私があり得ないと叫ぶ前に、アイラが叫んだ。
「そんな……ッ! あり得る訳ないでしょう! ここには魔剣を創るための作業台も、材料も魔力もないのに!」
そう、ここには作業台がない。
魔剣の材料である金属も、魔剣を創るために必要な備蓄した魔力もない。
さらに言えば、目の前のシルバ・エクアトゥールには技術がない。
理論が分かっていたら簡単に作れるというわけではないのだ、魔剣鍛冶を始めた職人が一生のうち5本は出来れば一生遊んで暮らせるといったような貴重な物なのだ。
それを、喧噪が収まって数分で創るなんて……。
アイラが叫ぶのも分かる。
しかし、彼は笑っていた。
私たちの反応が、面白いというように微笑んでいる。
「作り方は簡単ですが、残念なことに秘密です。……ただ」
ただ?
しかし、私が首を傾げる前に、彼は糸が切れたように地面に崩れ落ちた。
「……まさか……自分の体に蓄えられている魔力を……!?」
創り方についてはまた後日、しっかりと作品の中で説明します。
魔剣鎌の能力も…(;'∀')
ありがとうございました!
今日は夜にももう1話更新します!