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龍眼族の異世界魔剣鍛冶  作者: 天御夜 釉
第4章:魔剣【magisword】
55/333

055 戦闘狂

シルバは戦闘狂ではございません。

「へえ、そのリュー・ウルガっていう人とラン・ロキアスは似てるのか」

「めちゃくちゃ似てるの。顔もそうだし、性格も、種族さえいっしょだから……」


 そう俺に打ち明けたリンセルさんの顔は、実に明るい笑顔をしていた。

 しかし、それもすぐに萎んでしまって泣きそうな顔になる。


 燃える炎のような、そんな目が涙で揺れている。

 じわじわと目尻に涙がたまっていくのをみて、俺は……。

 彼女の涙を、親指で拭った。


「……シルバ君は、優しいね」

「そのセリフは俺に対していう言葉じゃないだろ?」

「ううん、ちゃんとシルバ君にもいうよ? ……ラン君はまだ私の彼氏じゃないし……、お姉ちゃんにまたとられるかもしれないし……」


 取られる?

 俺は鸚鵡返しのように彼女に質問をした。


 リンセルさんは、こくっと頷いた。

 顔はどこか寂しげ。俺ではなく、その先を見つめているように少し虚ろ。


「正しくは、私が譲ったんだけどね……」

「今、そのリュー・ウルガとやらはどこに?」


 彼女は、何もいわず俺の首に手を回した。

 女の子の手の、柔らかさ。彼女の体の細さ。

 石鹸だろうか、髪からのこれまた柔らかい匂い。

 そして、驚くほど起伏のない体つき。

 何歳児だ。本当に17歳か、この子は。


 俺は条件反射的に彼女を押しのけ、「すまない」と謝った。

 正直、俺に抱きついてリンセルさんにメリットは何もない。

 ここはリビングだ。ランに見つかったらリンセルはランに嫌われるだろうし、俺は……。


 ……俺は、今日あって名前を知ったばかりの先輩に、どういう感情を抱いているんだろう?


「ご、ごめんね……」


 リンセルさんが、自分のやったことに気づいたのか申し訳なさそうな顔で謝る。

 俺はいい、と彼女に断ってリンセルさんの頭に手を乗せた。


 きょとん、とした顔で俺を見つめるリンセルさん。

 俺は彼女に笑いかけると2、3回なでて耳元でささやく。


「何かあったら、協力はしてやるから。……そういうことはランにすべきだろうが」

「ご、ごめんなさい」


 話は終わった。

 俺はそう判断し、立ち上がる。


 さて、今日は早く寝て。

 ……明日から体験授業か、面倒なことだな。









 小鳥のさえずりで目が覚めた。

 目を開けると、昨日カーテンを閉め忘れていたらしい、日光が降り注いでいる。


「……んく……」


 俺は起きあがると、私服に着替えてリビングに向かう。

 まだだれも起きていないようで、廊下から各部屋の動きはみられない。


「……ッ?」


 と思ったら違った。ランがリビングでなにやら動いているな。

 リビングに入ってみると、ランはハッとしたように俺の方を向く。


「何やってたんだ?」

「……何も」


 怪しいな。

 まあ、どうでもいいか。


 俺はソファに座ると、立ったままのランを見つめた。


「な、なんだよ」

「座らないのか?」

「……あ、ああ」


 何を隠しているのかわからないが、とりあえず落ち着け。

 それにしても、とんでもない筋肉してるんだな。

 それで、なんでそんなに細い身体なんだ。


龍眼族レザールって、何か俺たちと違うのか?」

「知らん」

「はっ?」


 そりゃあ俺も転生者だもの、知るわけがなかろうよ。

 俺は隠すのも面倒になったため、彼に同類だということを伝える。


「え、死因は? 俺は事故死」


 鉄骨に貫かれて即死、とランは呟いた。

 自分からいいたくなかったら、そもそもそんな話にしなければいいというのに。

 しかし、鉄骨に貫かれてか。でも痛みもなくて良かったような気がするぞ。


 俺は腹を切り裂かれて、というのを伝えた。

 簡単にいえば戦死である。


「地球出身だろう? シルバも」

「お前の考えている地球とは違うと思うぞ……」


 アルカディア王国って聞いて、ランは理解できなかったらしいから俺と彼は同じ用で違う地球からの出身だと判明。

 ちなみに、彼の行っている国は俺がすべて理解できた。

 シーランド公国も理解できた。


「戦争のある世界なのかよ……」

「まあ、そうなるわな」

「じゃあ、俺は平和ぼけしてきたってことか……」


 そこまで気を落とす必要はないような。

 しかし、俺とランでどちらも地球なんだな。

 ……まあ、そんなことは関係ないか。


「なんだかんだで、ランってこの世界に1年近くいるんだろう?」

「そうだけど?」

「なら、この世界をどうみる?」


 俺の問いに、ランは数分迷ったのか何もいわなかった。

 ぐぬぬ、と悩んだ後彼は口を開く。


「そうだな、この数十年はまだ平和だって聞いた。……詳しいことはわからないな。この一年間、ほとんどが戦闘に明け暮れていたかっら」


 このことばで、俺は。

 この男が、戦闘中だということを知った。


「戦闘狂かよ……」

「そうだな、そうかもしれない。なんせ、この身体は前世の俺よりも良く動く」


 そういったランの顔は、キラキラと輝いていた。

 本気で戦闘が好きなのだ、この男は。


「そういえば、シルバはどうするんだ?」

「俺は両刀を目標に、鍛冶も戦闘もやるつもりでいるが」


 そうか、とラン。

 その顔は、じつに野性的である。


「なら、問題はないな」

「なんの問題だよ…」


 俺はこの後の答えを予測できる。

 きっとこう言うはずだ。「ならやり合えるな!」と。


「なら、やり合えるな!」


 ……ほらね?

ありがとうございました。

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