042 寮群衆地
最後まで読んでいただければ光栄です。
「……これ、どう見ても寮というイメージが湧いてこないんだが」
「奇遇ですね、私もです」
俺たち三人は、目の前の光景に動揺していた。
目の前に広がるは、一戸建て。
パンフレットに書いてある番地からするに、ここで間違いはないのだが……。
おかしいな、俺は市街地に迷い込んだのだろうか。
今、目の前には3階建て白塗りの立派な『別荘』が建っている。
確かに、シェアハウス形式であることが理解できるが、これはやりすぎではなかろうか。
さらに、ここだけではなく隣もである。
道路を挟んでも、あるのは同じような形・大きさをした建物。
高級住宅街か何かか、ここは。
「で? オレ達の割り当ては?」
「一括で3人届いているよ。これが……アイゼルの、これが俺の、これがエスペランサのだな」
封筒に入っていたのは紙切れ、3枚。
俺は一人ずつにそれを配り、番地を確認した。
「これって、男女を分けないんだな」
「まあ、コミュニケーションを図る目的もあるのでしょうか? ……『クレアシモニー魔法学園』というのは、少なくとも4つの国から生徒を集めてるんでしょうし」
エスペランサのいうことも確かに……なぁ。
たしか、ここ『都市国家ポラリス』を囲むように3つの国があり、そこから優秀な生徒を募集しているんだっけか。
たまにほかの国からも入学生はいるんだろうが……、うーん。
「ところで、私は103-2だったのですが、シルバさんはどうでしたか?」
彼女に訊かれ、俺は自分の紙切れに初めて目を通した。
解散してから見るのかと勘違いしていて、今さっきまで興味がわかなかったためである。
そしてちらりと目を通す。
どうやら、俺もエスペランサと同じ……らしい。
「ああ、俺も一緒だよ」
「えっ」
隣で呆気にとられたような声。
それを発したのはアイゼルだろう。少しだけ困ったような、万ウケたような顔をしている。
「俺、103-1なんだけど」
「まあ、そこは……」
気にするな、と俺は諭すように彼の肩を叩く。
アイゼルは、頬を膨らませてこういった。
「……おお神よ」
……別に神が決めたわけでもなかろうに。
ということで、半泣きのアイゼルを取り残して俺とエスペランサは少々離れた【103-2】番地まで歩いていく。
確かに寮という施設の中では結構豪華な方なんだろう。
しかし一つ重要な欠陥がある。
……どれも同じ造りで目新しさがまったくない。
少しくらい、芸術的建築物を置いてくれてもよかったような気がするのだが、一体どういう趣味なんだろう。
もしかして、何も考えずに建築したとかないだろうな。
「一体、同居人はどんな人なんでしょうねー」
「俺は、あの人がいないことを祈りたい。切実に祈る」
ラン・ロキアスがいると、俺の学園生活はろくなことにならないと予想した。
予想しただけ!
そもそも、龍眼族に普通の学園生活が遅れること事態が不可能だろうし、魔法学園ということもあってまず俺の考える日常のイメージとは違うような気がするのだ。
まあ、おそらく俺の前世というのも……普通かと問われれば、首を即座に振るレベルではある。
正直、この魔法学園のほうが平和なことを祈るばかりだ。
「シルバさん、何十面相するおつもりですか?」
「してたか? すまないな」
「まあ、いいですけどね!」
エスペランサ、なんか今日は元気だなぁ。
何かうれしいことがあったのだろうか、頬は桜色に上気している。
俺は彼女の反応に首をひねりつつ、寮の窓を覗き込む。
白いカーテンが閉められており、詳しく見ることはできないが数人中にいるようだ。
本当にかすかな影しか見えず、男か女かすら判別ができないほどのものだったが、まあ何とかなるのだろう。
「……そろそろ、中に入ろうか」
「そうですね、入りましょう」
俺は相も変わらず、雪のように白い寮のドアを見据える。
……さ、1年間の生活が決まる扉だ。
「もう、遅いですよこういう時は早く開けてください!」
「あっ」
御読了感謝いたします。