036 学園到着
やっとだ…。
最後まで読んでいただければ光栄です。
「全員、準備できたか?」
二人に確認すると、アイゼルもエスペランサもうなずいた。
アイゼルは一人用のテントと武器の手入れ用具。
エスペランサは衣服や調理器具やその他諸々。
俺は?
……俺は、着替えと食料を少々。
基本的に、鍛冶を始めるまで拳を武器にするつもりだが。
いったい、どうなることやら。
「ここから学園まで、徒歩でさらに2日かかります」
「えー。いい加減何かに乗ろう?」
いや、むしろ後たった2日でつくんだから、このまま歩いていきたいんだが。
「あの、私もさすがにここからは普通に道で行った方がいいと思います」
「それで、幾らくらいかかるんだ?」
「5000イデアも行きませんよ?」
……野宿するよりはマシか。
正直、昨日までは直線距離できた方が速かったが、今回は大人しく二人の意見を聞くとしよう。
……でだ、アイゼルが指さしたのは。
「……なんだこれは」
「【デルエクス】っていう乗り物なんだけど、知らないのかな?」
「いや、名称は知らなかった」
アイゼルの町で初めて見かけた、近未来的な雰囲気を醸し出している謎の車両だ。
……正直、すでに車両と言って良いのかすら危ぶまれるほどの物である。
車輪がなく、代わりにホバークラフトのごとく紫色の何かを下へ噴き出したアメンボのようなものがそこにはあった。
「……なんだこれは」
「事故率も、【デルエクス】が開発されてから激減したし、これだったら速いしどうかな? ちょうど学園前までの運行もあるし」
まあ、これで構わないか。
俺はうなずいて、二人について行くことを決めた。
正直言うと、凄く不便だと納得。
【腕輪】よ、目の前にその説明したい物が現れないと知識を披露してくれない仕様は実に不便なのだが。
どうかならないのだろうか。今は、【腕輪】を展開する前にエスペランサとアイゼルが説明してくれるから必要がなくなってくるのだが。
「で、学園に5時間ほどで着いたってわけか。日没前……」
「ほらね、歩くよりも速かっただろ?」
アイゼルが、してやったり顔で俺を見つめていた。
……まあ、今回は俺の間違いだったため、肩をすくませてそれを回避する。
とはいえ、日没前とはいってもさすがに遅いだろう。
巨大な門の先には、ただただ広い草原と、一本の道。
そして、その奥に遠目で見ても巨大と分かる建物があった。
「すんませーん」
俺がエスペランサに、周りを散策して宿を探そうかと話しかける前に、アイゼルがインターホンを押した。
『はい?』
そして応答。たしか、エスペランサの説明によると全寮制……だっけか。
常に構内に人が居るんだな。同時に寮も敷地内らしいし。
そもそも、都市国家の4分の1を敷地として持つって、どれだけ大きいんだと。
どうなっているんだ。
「入学候補者なんですけど、この時間って試験やってます?」
『はい、24時間受け付けております。少々お待ちください』
えっ。
24時間受付って、どこのフリーダイヤルだ。
試験、何時の時間に来ても良いってそんなに定員割れが激しいのか?
俺がこの世界の、学園の対応に困惑していると、アイゼルが俺の方にやってきた。
見れば、彼も驚いていた。
「この学園、凄いな」
「……まったくだ」
楽しみですねー、と入学がすでに決まっているエスペランサは気軽だった。
……これから、どんな試験が課されるかこちらは知らないからかなり緊張しているというのに。
知識問題とかなら、完全敗北だろう。
と、誰かがやってきた。
走ってきたらしいその人の種族は……腕獣族。
「こんばんは」
「……こ、こんばんは」
朗らかに笑ったその男性は、俺たちを見て。
興味深そうにうなずく。
「龍眼族、醒眼族、腕獣族ですか。……今年の候補者は、面白い人が多い」
「いえ、私はすでに決定しております」
エスペランサが、金色のカードを提示した。
もちろん謎だらけ、非公開だらけのパスポートカードもだ。
しかし、その男性は特に驚いた様子もなく「かしこまりました」と一言。
そして俺とアイゼルを見やって、「着いてきなさい」と。
アイゼルが俺を見つめる。
俺は目を閉じて首を振り、男性について行く。
どんな試験だろうと、成るようには成るだろう。
御読了感謝いたします。