312 神の間(シルバ)
俺は龍眼族集落のことを「アラグルズ」と呼んでいることを今知った。全くそういう話はいままでしなかったから、集落集落とずっといってきたけれど。
「中心施設と単にそう呼んでいますが、貴方達の政府機関などの集合体と考えていいでしょう」
長老はあくまでも、俺に「龍眼族の選ばれし者」というよりも「希望神に神託を預かった英雄」として接しているような雰囲気がした。先ほどからヒョウリとヒョウガに対して怯えるような顔を何度も見せているし、その2人もいつ俺が後ろから首を狩られないか、阻止するためにピリピリしているようにも見える。
その緊張状態は結局エスペランサの方まで伝わって、彼女は無言で俺の手を握ってきた。
暖かい何かが彼女から、手の指先から伝わってきて俺の心臓に到達する。心臓に達したそれは、余韻を残すようにゆっくりと破裂して、体の隅々までにその暖かな温度を行き届かせた。
「加護です」
希望神は俺の脳に直接語りかけた。こちらはありがとうというように、彼女の手をぐっと握る。
説明してくれたそれによると、この加護は簡単に言えば「武器による攻撃をある程度無効にする」もののようで。
元々から防御力も、唯一無二の攻撃力も持つ龍眼族に攻撃無効・低減効果をつけたら色々と厄介なことにならないだろうか? という疑問はさておき。
俺たちは、一段上級と思われる扉の前に来たわけだが。
部屋の前では2人の守衛が扉を挟むように配置されている。1人は剣と盾を、1人は鎖とぶん回しているんだが何かの芸だろうか?
「神の間に入るには、武器を全て一時的に没収させていただきます」
剣と盾を持った方がそういった。勿論、戦闘的に優位に立てなくなるというのは致命的であり、俺の側である2人はそれを手放そうとしない。
むしろ手放したところで、ヒョウリの魔剣は他の人が持ったところで……俺は守衛に嫌悪感こそ抱いていないものの、正直すこしイラっとしているから卒倒するかもしれない。
俺は2人にアイコンタクトを送り、ヒョウガの方は構わないがヒョウリのほうは魔剣であるがゆえ、他の人が触ってはならないとして地面に置かせる。
守衛は何をバカな、と魔剣であるが接触者が制限される事を全く信じていないらしく、鎖を持った方がニヤニヤと笑ってそれを手にとる。
その間長老は無表情だった。何が起こるのかわかっていたようで、間も無く守衛の1人が泡を吹いて倒れ周りが騒然となる中「人の忠告はやはり聞くべきのようです」なんてことを言って処理を丸投げする。
ちなみに鞘に触れても発動するため、剣の守衛から忠告を受けても興味心に打ち勝てなかった馬鹿達はみんな倒れた。
「あれはいい魔剣ですね。自分でお作りになったのでしょう?」
神の間にはいり、長老がやっと表情を戻してこちらに話しかける。そこは薄暗い部屋で、龍神の姿を象ったであろう像に、何人かの龍眼族が祈りを捧げている状態であった。
俺たちが入ってきたことにより部屋は静けさが幕を下ろしはじめ、視線が痛い。
できるだけ気にしないことにして、俺は長老に返答する。
「そうですね、創りました」
「それは武器神へーハイス様のご加護で?」
「いえ、正確には違います」
話に割り込んできたのはエスペランサである。
実を言うと、能力の授与を担当しているエスペランサ以外、ほとんどの神は気に入った人に能力を与えることはできず、切っ掛けや知識しか与えられない。
《魔武具創造》の能力を与えると宣言したのは武器神であるが、それを与えたのは希望神である。
ちょっとややこしいけれど。そうなってるらしい。俺はよく知らないし今のエスペランサの、話を聞いただけだ。
「なるほど。……さて、あれがご存知龍神の神託像です」
見れば見るほどそれは確かに龍神そのものであるような気がした。もしかして像が動き出すんじゃなかろうか、というほど繊細に作られていて、同時に表情がある。
手にしているのは神剣だろうか、……あれ本物じゃないのか?
長老は俺の推測を正確に読み取ったようで、にこにこと今初めて笑って見せた。
「流石。……ええ、本物ですよ」
本物だった。




