311 最終試験(ハル)
魔剣【闇夜の月】。
シルバくんから話は聞いたことがある。といってもシルバくんは魔剣鍛冶師だから、専門的なというか、その性能について強く語っていたけれどあまり覚えてない……。
ただ、そのなんていうんだっけ、「武器妖精」っていうのが取り憑いているとても価値のあるものだと聞いた。
剣が自我をもってて、それによって動く、とか。
【闇】属性の魔剣だから、闇に溶け込んだりできる、とかは知識として持っているけれど……って。
よく見れば、今は真夜中。寧ろ相手が有利になるようになってるのね。ちょっと頭が悪かったかも。
私はふぅと息を吐いて、銃はまだ構えず能力の発動準備をする。
自分の身の丈に合わないほど大きいし、重い。でも、これは私が前の世界で使っていたもののバージョンアップ版で、バージョンアップだけではない強化もしたとネクストくんは言っていた。
前のものでずっと性能は一級品だったから、それが強化されてるって思うとね。
私は自分自身に才能はあまりないと想ってる。だから今まで「努力」して、それが実を結んで世界一の狙撃手になった。
この世界でも、その名前を名乗っていければいいね、って。
……とはいっても、この世界で銃なんてほぼ使われないと思うけれど。
「ルールは簡単、私が倒れれば君の勝ち、逆なら私の勝ちだ、いいね?」
私はその言葉に対して頷いた。何時ものルールだ。……私は長距離が得意だったからこういうのはあまりしなかったけれど、……苦手なんだ、小銃を使うのは。
この銃も、一般的に銃を扱う能力を持たない人々が持つものとは全く違うもの。構造とかほんとによくわからないんだけれど、まず弾を込めるっていう概念がないから、その場所に増幅器が仕組まれてるんじゃないかな、って見るくらい。
基本的に危ないからメンテナンスは専門家に任せるものだし、でもこの世界ではそれがいないから……、シルバくんに今度診てもらうとしようかな。
「アンセル、できれば開始の合図をしてくれないかな?」
「はい。……では、はじめ、です」
最終試験が始まった。私はまず後ろに勢い良くバックステップをかまして、目の前を剣の一撃がかすめたのを確認する。
黒い剣が、炎に照らされているとはいえ闇夜に溶け込んでいてとても見えにくい。でも、相手の殺気はわかる。自分の殺気を隠すことはとても得意で、相手の殺気を察知することも得意。
ルークエルリダスさんは、今のを躱すかと関心に浸っているようだったけれど、私が懐に突っ込んだのをすんでのところで身を翻し、右に避ける。
「今の攻撃、避けられなかったら一発ノックアウトだったのに、残念」
言葉に対し、ルークエルリダスさんは「ノックアウト? はて?」と首をかしげていた。もしかして、この世界にボクシングはないのかな、ということは分からなくてもしかたがないかな?
「それだけで試合終了ってこと」
「ほう、……異世界の用語はシルバ君からいろいろと教えてもらっていたが、わからないものだな」
シルバくんの話によると、レイカー家自身の出自が転生者だったと聞いたことがある。
ということは、リンセルさんもアンセルさんも、目の前の彼もその異世界人の末裔ということになるんだね。
「溶け込め、【闇夜の月】」
そういうなり、剣が完全に消えてしまった。
でも、確かにそこにはある。だけれど、やっぱりどうしようもない。
私は、目の前にやってくるそれを、視認することができなかった。




