308 陰陽の鍵(シルバ)
「ああ、あれが龍眼族の集落か」
朝、出発してから約五時間が経とうとしている。俺は目の前に広がる集落の壁を見つめ、はぁと安堵の溜息をついてみた。
ちょっと時間はかかったけれど、まあ到着は出来たからいいだろう。
しかし、一つ問題がある。
「……入り口がわからない」
そう、一周してみたがどこから入るべきなのか全くわからない。
北の方に古代文字で、「鍵を使え」という文章があるのはエスペランサが教えてくれた。
古代文字は、今では龍眼文字とも言われているもので、龍眼魔法で使われるソレである。
どこか象形文字っぽい。俺には読めないはずだけれど、なんとなく意味は察することができる。
「読めます?」
「微妙だけど、意味くらいはわかる」
「それ、龍神の加護ですね」
そういって、彼女はもう一つの文章を指差す。
どうやって呼んだらいいのかはよくわからない。
「ええと、意訳でいいのかね」
「通じるのなら、どうぞ?」
「『選ばれた人が来たとき、陰陽の鍵が道を開いてくれる』……だと思う」
陰陽の鍵ってなんだろう? 俺はその選ばれた人じゃなさそうだ。
俺は鍵職人ではなく、魔剣職人だからなぁ。
こう考えてしまうと……どうも別の方法を……って。
「あれ? ヒョウガとヒョウリは何をやってるんだ?」
彼女たちは、それぞれ別の行動をして、同じようなものを召喚していた。
ヒョウガは空に向かって手をかざし、ヒョウリは地面に向かって手をかざしていた。
前者は白く輝くような、光を放出する剣のようなものを。
後者は黒く妖しく、色を吸収するような剣のようなものを。
それぞれの剣は、召喚されてしっかりと形を作る。
よく見てみれば、それが剣でないことは一目瞭然であった。
鍵だ。
「これ、鍵剣って言うの。私たちの秘密兵器」
そういってヒョウリはニヤッといたずら好きの小悪魔のように笑っていた。「これがその鍵なんじゃない?」と俺に質問し、この鍵剣が色々と特別な能力を持っていることを教えてもらう。
それの出自を質問してみたけれど、彼女たちはよくわかっていないようで気がついたらそれを使えるようになっていたと言われた。
……眼が泳いで、2人が曖昧な答えを出したことを感じて、ソレが嘘だと感じた。
「貴方がその選ばれし者っていうのなら、私達が鍵になるけれど?」
「おう。……それは嬉しい事なんだけれど」
もう開き始めたぞ、と俺が言う前にふたりとも気づいた。
目の前から、つなぎ目一つ見えなかった壁が、せわしなくうごめいたと思えば、人が通れるくらいの穴を開けて開いたではないか。
その光景は、この幻想的な世界で特に幻想的なものだと考えてしまうほど素晴らしい光景であった。
「開いたけれど、今から入るの?」
「入るしかなかろう?」
ほかに、どんな選択肢があるのかよくわからないけれど。
例えばなんなんだろうね。今から、扉を開いてまでして撤退するとか?
ヒョウリとヒョウガの方をもう一度みた。
どちらも覚悟を決めたような顔をしているのがわかる。
中に入るのにある一定の覚悟がいるっていうのがおかしなところだとは思うけれど、まあ気にしないほうがいいかな?
俺は目の前の穴を見た。門のようであり、ただの穴のようにも見えるそれをみた。
この奥は、龍眼族が多く住まう集落である。
俺が選ばれし者なのかどうかはよくわからないが、どうなんだろうね。




