304 自己嫌悪少女(シルバ)
「シルバくん、心配?」
「え」
「ハルさんのこと、心配なんじゃないかなって思って」
月明かりしかまともな灯りのない真夜中、山麓の街の宿屋でヒョウリは俺にそう尋ねた。
俺が一向に寝ようとしていないことに対して、何か疑問でも感じたのだろうか。彼女は洞察力の優れる女性だ。俺が何を考えているか、ハルのように完璧とは言えないもののきちんとわかっている節を見せてくれる。
「それはもちろん心配だけれど」
「私はあなたとハルさんの、明確な関係っていうのをよくわかっていないのだけれど。彼女の見せる余裕から逆算すれば、少なくともあなたが心配するようなことは発生しないんじゃないかな。とおもって」
そういってヒョウリは俺のことを励ましてくれた。声色だけを聞けば、どこか投げやりで温かみも何も感じないものなのかもしれない。でも、やっぱり考えれば彼女は俺のことを思っていってくれているんだなと考えることくらい容易い。
何かあったら相談してほしいな、と少女は笑ってくれた。俺も初めて見る、慈悲に満ちた笑顔であった。
「私は傭兵団に入るまで殆ど一人で生きてきたけれど、だからこそ貴方と仲良くなれてよかったって思ってるよ」
最初の方は憎んでてごめんね、とヒョウリ。
彼女は自分のことが嫌いなんだな、と思う。
美しいのを自覚しているというのに。彼女は自分の何が嫌いなのだろう。
「私は、自分のすべてが嫌い」
「なんで?」
「……なんでもない」
彼女はそう言って顔をうつむかせた。その顔は俺が今まで見たどんな顔よりも痛々しく感じてしまう。別に彼女の考え方が痛々しいというわけではなく、もちろん彼女が何か痛みをこらえているように感じるという意味である。
「でも、私は好きになりたいの」
「ん?」
「シルバくんが好きになった私を、私は好きになりたい」
そういって彼女は、俺にもたれかかるようにして眠ってしまった。
操り人形の糸が切れたかのように不自然なその様子は、どことも言えない不気味さを醸し出しているのだが、そんなことよりも彼女が心配になって、俺はそっとヒョウリを移動させる。
……考えていたよりもずっと軽い。この長身からは想像もつかないほど身体が。
ちゃんとした食生活をすごしてきていないのだろうか。心配になるとともに、彼女をきちんと食べさせようと考えてしまう。
彼女は自分に「なんでもない」といったが、絶対に何かあるんだろうな。こんどヒョウガにも聞いてみたほうがいいのかもしれないけれど、もしそれが言い難いものであれば彼女にもはぐらかされるのかも。
まあ、どうでもいいんだけれどもね。俺は彼女たちを大切に思うだけだから。
「ちゃんと寝ないと寝違えるぞ」
彼女に声をかけつつ、自分の場所に引きずり込む。
息はちゃんとしているようだ。
それにしても、と俺はどうしても考えてしまう。
自分のことが嫌い、か。彼女のような自分の美しさを自分で自覚している人は、自分のことが基本的に大好きなんじゃないかと考えていたんだけれど。
……自己嫌悪の激しい正確なのかね。俺にはよくわからないけれど。
俺は自分大好きだからね。自分を愛せないと、他の人達も愛することが出来ないと考えているから。
でも、そんな自分よりも好きな人が出来たから、その人達のために自分を犠牲に出来るだけなんだ。




