303 愛か適度な自由か(ハル)
「さて、これで君も立派な聖王国民だ」
そういってカエシウス聖王国の国王は、私を見てにかっと笑みを見せる。
その笑みが一体何を意味するのか、私にはよくわかっていない。私にはこの後大事な試験が待ち受けているから、そっちに意識がいっていたということもあるんだろうけれど
クレインクインさんに冊子とカードを一つずつ手渡される。おそらくパスポートと、身分証明書なのだろうと察することはできたけれど。どうもどちらも目立つところに「特権」って印がされているのはどういう意味なんでしょう?
「シルバと同じだけの権利を与えたのだが、もしかして必要なかったか?」
ただしくは、別世界からこの世界にやってきた人間と同じ権利、という意味らしい。レオさんが簡単に説明してくれる。
例えば、これを国境の役所に提示するだけで特別な手続きなしに行き来できたりだとか、武器を買うときに書類がこれ一つで満たされる、だとか。
でも、それはただこの世界に他の世界からきたというだけで全員に配られるものではないのだと。
やっぱり、シルバくんの周りにいる人は特別扱いされるのかしら、と考えたりなんだりして、私はわかった風を装う。
正直、全くわかってない。
「ありがとう」
「気にするな」
気にするなって言われたって、普通に考えて身内に特権を与えるなんて権力の濫用もいいところなのに。
私は疑問をでも、口には出さず頷く。
全ては彼女が好意でやってくれていること、いちいち突っ込んだって彼女の心象を悪くするだけだろうし、と思って。
「ところで聞きたいのだが、シルバっていうのは前世どんな人だったんだ?」
出発の時間までまだまだ時間はある。私がなんて声をかけようかと迷っているうちに、クレインクインさんから話しかけてくれた。
どうもシルバくんがダウンファールくんだったときのことに興味を示したみたい。私が前世で彼の元恋人だったということは広まっているらしいし、私は事実を伝えた。
「今よりも常に悲壮感を漂わせて、静かに暗躍するタイプの男の子だったよ」
暗躍していたのは私も同じだったけれど。私が完全に遠距離からの狙撃を担当しているその逆で、ダウンファールくんは闇に溶け込んで敵に近づき、喉を掻っ切るタイプの暗殺者だったように思う。
実際、恋人関係が解消された後も私たちはペアで扱われることが多かったし、それを不思議と疑問に思わずやっていた気がする。でも恋愛感情というものは彼に行きながらもネクストくんにいっていたし、ネクストくんには冷ちゃんがいたから私は遠くで眺めているだけだったような気もするんだけれど。
「すくなくとも、そういう魔剣? みたいにド派手なものを好む人間じゃなかったかな」
黒、を体現したような人間だったと私は思う。闇夜での戦闘を有利にするため、黒色の服を着ることは日常茶飯事だったし、それが日常生活にも影響して真っ黒だった。
「正直、今のシルバからは悲壮感を感じないのだが、私だけか?」
「私が敏感なだけ。……シルバくんは闇を多く抱えている人だったから、今もそう」
女性に囲まれて幸せそうでも、シルバくんはなんだかんだ何時も悩んでいる。しかもそれを顔に見せないし、龍眼族のわかりにくさも相まって表面上はなんとも。
でも、私にはずっと見てきたからわかるんだ。別に自分が特別だって言いたいわけじゃないけれど。わかるものはわかる。
シルバくんはできるだけ対等に全員と付き合いたいと思っている。それはネクストくんがそうだったから。
前世で、一番女の子とうまく行っていたネクストくんに憧れて、頑張っているのはわかるのだけれど、見ている限り最近は魔剣のことも加わってうまく行ってないみたい。
「私は、シルバと結ばれたかったんだ」
クレインクインさんは、そういって肩を落とした。
聖王国の王はクレインクインさんで、彼を王にするわけでもない。ただ、彼に多くのことを考えさせないようにして、魔剣の開発や研究に没頭して欲しかったんだって。
でも、それはシルバくんが許さないだろう。
シルバくんは自由がほしいだろうから。前世ではいろんなしがらみに束縛されて、ああなったんだから。
「シルバくんは監視がつくことを是としないよ?」
「……だから、その理由で断られた」
クレインクインさんのこと、シルバくんは決して嫌いというわけではないと思うけれど。
やっぱり、背に腹はかえられないのかな。
そのてん、私はまだ聞いてないけれどレイカー家はどうなってるんだろう?




