301 剣のお手入れ(シルバ)
「残念ながら、宿が見つかってしまいました」
残念がることでは絶対にないはずだというのに、明日物憂げな顔をしているエスペランサを部屋の中に押し込む。
このままでは、部屋の中でテントを設置し始まるのではないかという嫌な予感が頭をよぎる。そんなに野営がいいのなら一人ですればよかろうとも言うわけにもいかない。
「エスペランサ様、今度にしましょう?」
「……そうですね」
気を落としたような雰囲気の彼女を、ヒョウリとヒョウガがなだめているがまあこんなものだろう。
俺は豪華とは決して言えないが、代わりにやすっぽいとも言えないそんな部屋を見渡して、4人部屋であの値段はだとうだな、と頷いた。
本当はスイートルームが良かったのだけれど、どこの宿を探しても3人用以上のスイートルームなんて見つからなかった
。最初から存在しないのかな。
と、ここまで来たところで首を振る。今から龍眼族の集落に向かわなければならない。それのためには、多くの場合で困難に対する対策をしなければならないとか完全に地獄だ。
道はあるにはあるらしいが、山賊が多いとも聞いたことがある。
幸い、アンセルやリンセルといったお嬢様はいない。エスペランサさえ良ければ、少々荒っぽいやり方で超えるつもりである。
まあ、そうならないことを祈るのが先か。祈っても仕方ないから俺は祈らないけれど。
「ヒョウガには魔剣がないけれど、大丈夫か?」
「剣技であるていどのカバーは可能なのです」
そういって、彼女は自分の身の丈に似合わない両手剣を俺に見せた。
先程から何かと思えば、これなのか。
彼女から手渡しでそれを持ち、軽く整備の具合を見てみる。
どうしても、長年使っているからなのか刃こぼれしている場所が多く見受けられる。西洋の剣だから、叩き斬れば問題はないのだが、ちょっとアレだな。
俺は彼女に、整備を俺の手でしてもいいかと申請した。たまに自分の剣は自分で手入れしなければいざというときに力を発揮しないと考えている人もいるから、剣に手をつけるときは必ず聞くようにしている。
彼女は快くそれを承諾してくれた。
ヒョウガの話によると、きちんとした手入れの仕方を知らなかったため、独学でやってきたためこの機会に何とかしたいのだという。
しかし、俺のやり方は魔法に物を言わせた邪道でもある。
心はもちろん込めるが。それでも魔法をあまり使わない鍛冶師からすれば「邪道だ!」と暴動でも起こされそうではある。
「魔法でやるから簡単だぞ?」
「なら私も習うです」
そういってヒョウガは俺の隣に座った。
俺が魔力で剣を固定し、作業をスルのをじっとみている。
「魔法は?」
「使えます」
ヒョウガに、手入れに必要な魔法を教える。
これらは、属性がなんであれ影響はない程度のものだから問題はない。
彼女は要領が非常に良かった。念のため5回ほど練習したのだが、1回めにはすでにやるべきことを完璧に把握できていたし、魔法も4回とかからないうちに習得できたようではある。
「成長が早すぎないか?」
「好きなことですから」
鋼鉄で出来たであろう剣を持って、ヒョウガはそれを抱きしめるような動作をした。
こういうの見ると、その剣で魔剣に改造したくなってしまうんだよな。悪い癖だ。改善と称して魔改造だけはしないようにしないと。
「さて、寝ますか」




