300 解散の時 (シルバ)
「さて、準備もできたしいきますか」
今から、俺とリンセルたちは別行動になる。
俺は俺で傭兵と神とで一緒に龍眼族の集落に向かう。
ハルはこちらではなく、今から分岐してクインやレオと共に王城へ、アンセルとリンセルはレイカー城へ向かうことになるだろう。
ハルはなんだか、ちょっと楽しそうに浮き浮き顔で2人を見つめている。この世界に興味が有るのだろうか、本当はよくわからないけれど。
でも、やっぱり少し考えて彼女と一緒に居られた時間は1週間ほどしかなかったと感じてしまった。
もし、集落に行くということが決まっていなければ、俺の身体に異変が起きていなければ。
もっと長い時間、彼女と一緒に入られたのだろうか。
あそこまで思いつめた人に、やっと会えたというのに。
気づけば俺は、目の前にハルがいることにすら眼で捉えることが出来なかった。
「また、レイカーさんのお城でね」
それは、つまり彼女が試験を合格してみせるとそういう意味だったのだろうか。
しかし、俺は彼女に何も声をかける事ができなかった。
やっぱりダメだった。あの時、彼女に「あえて良かった」と言われて思わず涙がこぼれてしまった時以外、俺は彼女に触れられずにいる。
ここにいるのはもしかしたら俺の妄想が創りだした夢で、彼女に触れるとソレが霞のように消えていくのかと考えてしまったから。
やっぱり、俺は誰が考えるよりも脆い存在なのだと、何度も考えることが出来た。強がっていたとしても、寂しさやそれらをすべてきちんと封印していたとしても、それはやはりなんというか、自分に嘘を付いているという感覚だな。
「そんなに心配そうな顔をしないで。 ……ほら、アンセルさんたちにもさようならは言わなくていいの?」
「ああ、そうだな」
リンセルとアンセル、それぞれに別れを告げて俺はもう一度ハルの方を向いた。
双子を乗せたデルエクスはすでに出発しており、視界から消えようとしている。もう夕暮れだし、それもそうなんだろうなと考える。
レイカー城はここから更に3時間有する。渋滞はほぼないと思うけれど、それでもつくのは夜遅くなってしまうだろう。
「クイン。ハルのこと、頼む」
「いつかシルバにそうやって言われたいものだな」
クレインクインは、そう皮肉を言って舌を出すと運転手に出発を命じた。
ハルはこちらにしばらく手をふっていたが、それも視界から消えるか消えないか程度の当たりで前を向いて、景色を確かめているように感じられる。
「私達も、集落に近い街で宿を探しましょう」
エスペランサの声にはっとして、俺は自分が今やるべきことを思い出した。
そうだな、彼女たちに体の異変の意味をきちんと伝えてやるべきだな。今はそちらを先に優先するべきだろう。
彼女たちを安心させるという意味でも、それは必要なのだから。
「ヒョウリ、ヒョウガ。一応野営の予定も考えたいのだけれど、野営でもいい?」
少なくとも、こういう時のために魔武具でテントは創り出してある。
何回か実験で使ったことはある。何か特別な事はないけれど、とりあえず人が5人ほど軽く生活できるほどの亜空間を作り出せてはいる。
魔剣貯蔵庫の亜種と考えてもいいだろう。とにかく、あとは野営でもいいかを……。
あ、そういえばこの2人は傭兵だったな。
「問題無いわよ」
「こちらも問題ありません」
「キャンプなんて初めてなのですもの」
エスペランサは、むしろ野営を喜んでいるようにも感じてしまう。
ま、こんな少女たちなら問題はないか、と考えてしまう自分がいる。
とりあえず、目的地に向かおう。そこから考えても、問題はないのだから。




