003 アビリティ
「私の名前はホープ。『地球』で英語圏内にいれば分かりますでしょう?」
ほかの3柱を遮るようにして俺に話しかけた金髪の女神は、俺を見上げるような地点に移動する。
歩いている、と言うよりは滑っている。足はほぼ動かしていないのに、場所だけを移動しているような感じだった。
「初めまして!」
「……は、初めまして?」
元気いっぱいにそんな事を言っているところ申し訳ない。
この女神、かなり頭悪いんじゃないかと思った。初めましてっていうか、今初めてあったわけではないだろう。
魂としてさまよっていた俺を、この場所まで誘導したのはこの神たちではないのか?
「お前は黙ってろよ、ホープ」
「何を言ってるんですか、スロツ。貴方は適当に魂の運命を決める、アグレスは最終的に自分の利益になるように企んでいる、ヘーハイスは利用する気満々。この状態で制止させる何かがないと最終的に困るのは彼です! その為にこの希望神ホープが!」
ビシィ! と俺を指さす女神。
希望神って、名前そのままじゃないか。もっと一捻り入れてくれよ。
俺がそんなことを考えているのも知らないのだろう、希望神ホープは「ふふん!」と得意げに無い胸を張っていた。
……俺の要望を聞いてくれるのかと思ったが、別にそうでもないような気がする。
「マジかよ……」
神だったら、俺の思っていることくらいは分かっているのだろう……と、ホープの方を見たらきょとんとされた。
周りの男神3柱が笑いをこらえるように震えているのを見るに、どうやらほかの神は俺の本心を分かっているらしい。
……なんだか、ホープが可哀想に見えてしまった。
そもそも、他の人が俺に何をしてくれているのかすら知らないんだけど?
「ホープ……さん?」
「私は貴方に何でも、一つ欲する特殊能力を与えましょう! ぽいっ」
……今、「ぽいっ」って言った?
と、俺が思ったすぐに、上の方から何かが飛来してくる風を切るような音が聞こえ。
俺が身体を動かそうとする前に、それは頭に直撃した。
同時に、悶絶してしまいたくなるような痛みが後頭部に走る。
「ってぇ!」
「キャッチしない貴方がいけないのです!」
断言された。
……仕方がないため、そのまま落ちてきた物体の方に目を向ける。
何かの本のようだ。
六法全書よりも恐らく分厚く、さながら鈍器に使えそうである。
題名は。
「……【特殊能力一覧】?」
「そうです。……その中に書かれている特殊能力、全3000のうち一つを貴方に与えます! よく考えてお決めください!」
「ちょ、ホープ。今は俺たちが話をしているんだ、面倒なことを絡ませるな!」
ついに怠慢ぎみの運命神、スロツ=トールがキレた。
胸の部分のスロットマシーンが目まぐるしく回転し、対象である希望神ホープの運命を決定する……が、特に変化は起こらない。
「貴方は忘れたのですね。希望神には如何なる手段を用いようとも、神はその行動を阻害することが出来ないのです」
「……普通の神なら、な」
スロツ=トールが憎々しげにそう呟いた後、すごすごと引き下がる。
ホープは何も無かったかのように俺に向き直ると、その本を開いて説明を開始する。
「大きな文字で書かれているのが能力名、その下に羅列されているのが特殊能力の説明です。明記されていない部分もありますが、十分参考に出来ると思います。あと、言語は貴方の理解できる言語になっておりますので!」
ぺらぺらと俺は数ページ、その本をめくってみた。
アイウエオ順ではなく、アルファベット順だから少し探しにくいか。
【見捨戻し】、『一度諦めた選択肢を、後々に利用できるように使うまで脳内保存される能力』。
どこに使うのかねぇ、こんな能力。
やはり、戦闘に使えるものだけではないようだ。
「……しかしここまで好き勝手していいのか」
「貴方には言われたくないのですよ、飴の裏に猛毒を隠したヘーハイス?」
「ぐっ」
……まあ、そんなものだろうと思ったけど。
鍛冶神ヘーハイスは、気まずそうな顔でホープから目を逸らしつつ、特殊能力の一覧に手をかざす。
「儂が与えようと思うのは、これだ」
本が勝手にめくられ、【魔武具創造】という欄までページがすっ飛んだ。
これなら、長い時間をかけて一枚一枚めくらなくとも一気にめくった方がよろしいかと。
【魔武具創造】、『魔武具鍛冶の絶対的才能と、自由自在に魔武具を創造し、使用する能力を得る』。
……なんだこれ。