291 赤い髪の君
2人が完全に寝たことを確認して、俺はとりあえず部屋から脱出するように飛び出した。
少し一人っきりになりたかったのだ。まあ、ソレを考えるとやっぱり自分の心が揺れ動いているような気もするけれど。
夏休みに入ったら、ヒョウリたちと龍眼族の集落に向かわなければならない。そこに何が待ち受けているのか俺にはよくわからないし、正直不安ではあるものの、でもやっぱりこの身体が今どうなっているのか、知りたいからね。
「お兄さんお兄さん、お悩みのことでもあるの?」
宿泊施設街の真夜中は、もちろんのこと闇が蔓延る。売春婦がやはり目立つか、際どい服装で身体を十二分に主張している彼女たちは、自分たちの体を売って金を得る。
俺は彼女たちを忌み嫌うようなことはしないし、職人もみんなも、汚い言い方をすれば自分たちの何かを売っているのだ。高尚な仕事だとは思わないが、だからといって何か特別なことがないわけではない。
もしかしたら、彼女たちが何か。貧困などの特別な事情でおこっているのかもしれないし。
「1時間だけでもどうかな?」
「いや、今日は連れがいるんで遠慮しておくよ」
えぇ~と残念そうな顔をしてその少女は大人しく引き下がった。いい子だな、何人かは必ずしつこい人がいるのだが、この娘は大人しい。
「名前は?」
「リリィだよ、あそこの店で働いてるからまた来てね」
ばいばい、と手を振って別の客に声をかける少女、リリィを横目に街を進んでゆく。
今探しているのはその女の子じゃないんだよなぁ。ハルがここにいてくれれば本当にいいんだが。
いるわけはないと考えつつも、心のなかの何処かでは彼女を求めている自分がいる。
この世界であったあの瞬間、俺は自分が夢を見ていたのかそれとも現実なのかよくわからない。ほんとうによくわかっていないのだが、やっぱり現実だと思いたいのだ。
「ハル」
何人婚約者がいようともずっと彼女を求めている。この世にいないかもしれないということ、というよりもこの世にいない可能性のほうが高い。
なのに、普通に考えて不可能なことを、俺はずっと求めている。
特に最近、彼女を考えない方が少ないような気がしてきた。
「ハル、いないかね」
「ここにいるけど、どうしたのダウンファールくん」
はっ? となって声のした方向へ……上の方へ首を回す。
そこには、確かにハルがいた。
業火のように赤い、ツーサイドアップの髪の毛。
金色に輝く猫のような瞳。出る場所が出た完璧な身体のプロポーションと。
彼女を象徴するように担いでいる巨大な塊のような火器。
前の世界では、彼女はこのように呼ばれていた。
銃撃の精霊。その銃撃は未来を予測し、必中。
学園にいた時代、防がれることはあったものの「あの人」以外にはすべて外さなかった天才少女。
そんな彼女と、俺が知るそれと全く同じ容姿を持った少女がそこにいた。
「本当に、俺の求めているハルなのか?」
「さあ? 貴方が何を考えているのかよくわかるけれど、抱いたことのある貴方なら触ればいいんじゃない?」
彼女は、そうやって俺の方に近づくと、両手を広げた。
「ほら、飛び込んできてもいいんだよ」
不思議な事に、俺の覚えている彼女と何も変わらない。
俺は彼女の、言葉に甘えることにした。




