029 鍛冶用事
鍛冶屋につく。
取りあえず、衣服を買い終わったら次は鍛冶屋である。
え。自分で創れと?
残念ながら、俺は『作る技術』というものは与えて貰ったがそれに必要なものは自分で揃えなければならないのだ。
取りあえず、『魔剣鍛冶』に必要なものは剣の基になるもの……主に金属と魔石と呼ばれる宝石、そして魔法だ。
この場合、俺にはどれもないような気がするが、最悪魔石はなくてもどうにかなるらしい。
魔法の技術は基本的なものをエスペランサに教えて貰うとして、ほかは? 金属は?
……こればかりは、自分で調達するしかあるまいて。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
俺は首を振ると、きょとんと目を点にしたエスペランサの頭をなでた。
……いやあ、可愛い。
そして最後、大前提として存在するのは『魔剣鍛冶用の作業台』だ。
まず、これがないと話にならない。
『魔武具』とは、魔法で武器を打って作る武具の総称であり、作業台が魔法に耐えれなかったら粉砕するらしい。
ちなみに、この知識は最初からあったわけではなくこの町の図書館から得た。
この町の図書館、『パスポートカード』さえあれば誰でも自由に立ち入りできるという。
さすがに、前科者とかは制限されるだろうが、驚きこそすれ龍眼族の俺を拒否はしなかった。
拒否したら拒否したで、何か問題になるのかも知れないが。
「あの、取りあえず鍛冶屋の前までつきましたけど」
「……おう」
煉瓦作りの建物。そこはほかの建物と何ら変わりなかったが。
……ほかの建物が比較的明るい色で構成されているのに、なぜ鍛冶屋だけ真っ黒なのか。
「……いいセンスをしているな」
「自分と趣味が同じだからといって、センスが優れているかなんて分かりません。少なくとも私はいいと思いません」
全否定である。
俺は肩をすくめ、重い鉄製の扉を押して開いた。
「おう、いらっしゃい」
そんな気の軽くなりそうな声とともに、建物の中は動き始めたような気がした。
絶え間なく鳴り続ける、鉄を叩く音。
その間に流れる、高温のものを水に突っ込んだような音。
鍛冶屋のカウンターには、一人の青年と。
その後ろに、所狭しと並べられた武器の数々。
「……龍眼族か。何がほしいんだ?」
青年は、驚きこそすれ戸惑うような素振りは見せなかった。
少し新鮮だ。エスペランサの父とか、あそこの村の店主とか、はたまたごろつきなど、今まで俺をみて動揺した人は数多くいるのに。
「龍眼族には、どんな武器が扱いやすいんだ?」
「それはデータにないね。むしろ俺も龍眼族を見かけたのが今日初めてなもんで」
ああ、自己紹介を忘れていたな、と青年。
青い瞳、そして長い白髪。
「俺の名前はアイゼル。アイゼル・ベラギオス。種族は醒眼族だ」
そう彼は、名乗ったのだった。
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