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龍眼族の異世界魔剣鍛冶  作者: 天御夜 釉
第14章:傭兵【mercenary】
279/333

279 涼野冷という女性

 ヒョウガは。あの人に似ていると思った。

 彼女がヒョウリの部屋に泊まり初めて1週間がたっている。


 性格は良好でリンセルたちも特に敵意を持っていないようだったし、むしろ一緒に料理を作ったりとか、いろいろ遣っているようだ。

 でも、その愛嬌たっぷりの可愛い顔のなかに、心底冷え切ったような冷たさが垣間見えてしまう。


 周りへの拒絶というべきか、なんと言うべきか。

 心の弱さを隠すため、1枚の防壁を常に他人と挟んでいるような感覚がした。


 いつもの俺なら、他人のああいう感じの面倒くささはスルーするのだが、否応にも気にしてしまった。

 本当に困ったのは、それが「ヒョウリの妹分だから」ではなく、ほかの理由だからである。


「……レイに似ている……」


 華琉はるの親友で、俺の親友の恋人だった女性にとてもよく似ているからだ。

 顔が似ているわけでも、境遇が似ているわけでもない。

 ただ、根本的なそれが、どうしてか似ているように感じられたのだ。


 彼女の名前は「涼野 冷」。

 若干17歳にして、剣聖だった少女だ。












「あ、ダウンファール君こんなところにいたんだ」


 風が強い。鼓膜を振動させ、ビュウビュウといった音を立てている。

 そんな校庭を、俺は屋上から見つめていた。


 絶賛戦闘中。普段と変わらない派手な戦闘の中、後ろの方から話しかけてきたのは涼野冷である。


「加勢しなくていいのか? 愛しの君が戦禍の中だぞ」

「あの人のことなら、心配ないからねー」


 今回は私も見学しよっと、と俺の隣に来る彼女の目線は、どこか悲しげにも見える。

 冷は超努力家だ。一般的に考えれば、彼女は能力者というよりは、ちょっと能力の使える剣士と言ったところだろう。

 俺や「彼」みたいに、能力主体で戦うには到底かなわない。


 しかし、彼女はそれを剣の技術で同じステージに立っている。

 人間離れした人間のことを、俗称で「化け物」とかって呼ぶが、彼女はまさにそうなのかもしれない。


 なにより、そんなことを除いても、彼女は美しすぎる。

 男なら初対面なら……いや初対面でなくてもその姿を視認すれば目で追いたくなる。

 隣に立っていれば、その目をずっと見つめたくなるほど煌めいた瞳。


 肩までつく長い髪の毛と、ツインテールのように括られた2本の横髪。

 それだけ振りかざしていながら、よく戦闘ができるものだと感心せざるを得ない。

 華琉みたいに遠距離ならともかく、相手と肉薄しながらあれだけの距離は、俺には無理だな。


「お前がこんなところにいたら、あいつ怒るんじゃないか?」

「確かに、独占欲は強いかも。だから私は裏切らないし、裏切るつもりはない」


 だけれども、他人に信用を寄せるのは別だと思う、と銀髪の剣聖ははっきりと口にした。

 恋人を信用するのは勿論。でも、それだけでは足りないことが必ず出てくる、と。


「俺にはわからないな」

「それは、貴方が一番自分を信用しているからでしょう」


 その言葉を聞いて、はっとせざるを得なかった。

 自分で今まで、何もかも遣ってきていたから、俺はこうなってしまったのかと強く自覚する。


「華琉ちゃんとはもう復縁しないの?」

「……俺は彼女のことも、婚約者のことも裏切ったからな。……そんな権利ないだろ」

「なにそれ、全然華琉ちゃんのこと分かってない」


 ここで、初めて俺の前で彼女は怒ったような気がした。








「……あれ?」


 目の前の視界がボヤけ、俺は自分が寝室にいることに、気づく。

 いつのまにか夢を見ていたらしい。懐かしい夢だ。最後に彼女と2人で話をしたのは、この世界にいた時期のことも考えると4年ぶりくらいだろうか。


「あ、おきたー」


 横を向くと、笑顔をこちらに向けているリンセルの姿があった。

 良く見れば、寝室ではあるのだが自分の寝室でないことに気付く。


 ここは、リンセルの部屋だ。


「おはよう、シルバ君。心配したんだよ」


 俺の顔をじっとみつめ、顔色が悪くないことをうけて安堵した表情を浮かべる彼女に、俺は手を伸ばして頭をなでる。

 今は何時なんだろう。時計をちらりと見ると、深夜2時であった。


「リンセルがここに?」

「ううん、ヒョウリが」


 力持ちなんだね、やっぱりと驚いた様子のリンセルに、俺は笑いかけて腕をつかみ、そのまま引っ張り込む。

 はわわ、とかあわてた感じの声を上げた少女に、俺は無言での圧力を加えると、そのまま布団の中で抱きしめた。


「あー柔らかい」

「……どこ触ってるの、まったく」


 どこって胸だが、とは流石にいえず。

 まあ良いではないか的に彼女の体を反転させこちらに向ける。


 夜はこれからだからな。まだ時間はたっぷり、ある。

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