276 ヒョウガとヒョウリ
「初めまして」
ヒョウリにつれてこられた少女は、まるでヒョウリとの血縁関係を疑いたくなるほど、にたような顔をしていた。
むしろ、身長の差はあれどリンセルとアンセルのような感覚をうけたのだが、彼女たちによるといっさいの血縁関係というのは存在しないらしい。
「ヒョウガと申します」
名前も1文字違いじゃないか、とも思ったのだが。
考えれば、たしかヒョウリはアガグ教授に名前を付けてもらったんだっけ。
そう考えれば、容姿から姉妹と勘違いした彼が付けたと思ってもいいのだろうか。
「よろしく」
エスペランサは、「この人が」と、自分の信託が間違っていなかったと安心していた。
彼女が安心すると言うことは、すくなくとも悪い人というわけではなさそうだ。
見る限り、純真無垢な笑顔を浮かべた美少女、といった感じだろうか。
リンセルやアンセルは少々ご機嫌斜めな様子だったが、それを必死に表へ出さないようにしている。
それだけ、彼女が魅力的に見えたということだろう。
これで銀髪っぽい髪色の人は4人か。なんでここまで。
いや、別に学園内に銀髪があふれかえっているというわけでもないのだ。
少なくとも、おそらく1000人はいるだろうここ、クレアシモニー学園でも10人程度のはずだ。
「私と同じ部屋でかまわないので、ここに泊めてもかまわないでしょうか」
ヒョウリは、レイカーという名前をもらってから変に敬語になってしまった。
前の、冷静なクール口調は聞けないのだと思うと少し残念だ。
ていうか、俺は前の方が好きだな。
このままだと、どうしてもアンセルと被る。
あとで掛け合ってみよう。
「ヒョウガは妹分なんです」
そんな説明を聞きながら、俺はうーんと考える。
勿論、作るとしたらどんな魔剣を作るか、だ。
彼女は俺と人生を共にすることがほぼ決まっている。
それなら、今から考えていたって問題はないだろう。
「ヒョウリ、後で俺の部屋」
「はい」
彼女にしか聞こえない程度の声で指示し、俺は自分の部屋に戻ることにした。
ヒョウガという少女を見ていると、どこか心が落ち着かないのだ。
恋? いや違うと思う。
雪女に見つめられているような、心底恐ろしい冷たさを感じる。
怖いようだが、やはり美しい。
「到着しました」
「……その敬語なんとかして辞めてくれない?」
俺のベッドに腰掛ける少女に、放ったのは抗議であった。
ヒョウリに、前の方がいいと単刀直入に意見する。
やっぱり、彼女には少々憎たらしささえ感じさせるあの口調が好きだ。
でも、と何か口ごもる彼女に対して、俺はヒョウリの頭をなでる。
最初は、自分に自信が有り余ってあんな感じだったというのに。
この数ヶ月で、ここまで謙虚になった。謙虚になってしまったと言うべきであろう代わり映えに、俺は半分満足しながらもどこか不安さを感じ取っていた。
不安定なんだよな。こういう急に変わった人というのは。
どこかに必ず無理をしているから、決壊したときのショックが怖い。
それが涙であればまだ救いようはあるのだが、全方位への攻撃だったら社会的に終了してしまう。
「でも、レイカー家の一員だから……」
「なら、せめて俺の前だけでも素を出してくれないかな?」
素を出す、というのは別に難しいことではないと思っている。
もちろん、相手の信用や信頼という問題はあるのだろうが。
彼女をじっと見つめると、少々照れながらもこくりと頷く姿が確認できた。
素直でいい子だ。控えめながら、俺に抱きついてきたヒョウリの身体を受け止めて、俺は息をつく。
「ん、灯りは消して欲しいかな……」
「分かったよ」
言葉から、彼女の言いたいことを察して俺はパチンと指を鳴らす。
灯りが揺らめき、消える。そのまま倒れ込むようにしてベッドに転がり。
俺は暗闇の中から、彼女の存在を、認識した。




