027 最南の町『アイリス』
町到着です。
最後まで読んでいただければ光栄です。
「……はぁ」
「どうしたのですか、シルバさん」
森を抜け、国境を通過し。
俺とエスペランサがたどり着いたのは、『カエシウス聖王国』。
エスペランサによると、ここは立憲君主制の国らしい。
絶対王政ではないところは、俺やエスペランサみたいな外から来た人からすれば、都合のいいものではあるけれど。
「此処は大丈夫ですよ。かなり外交的な国ですし、そもそもここに『龍眼族自治区』があるのですから」
「いや、学校って良いなぁと思って」
俺たちが今いる場所は、最南の町『アイリス』。
エスペランサの出身地と比べると、ずいぶんと規模は大きいが。
水色の、石で造られた家が数十、町の真ん中には商店街のような通りもあった。
行商人が奇妙な姿をした馬の引っ張る車を走らせているし、道路らしき場所は謎の乗り物が宙に浮きながらホバークラフトのように走ってゆく。
乗り物は、【Δ】に【×】を重ねたような車体に、バイクの上部分をくっつけたような形だった。下へ、下へと色とりどりのガスのようなものをっふきだしている。
近未来っぽくてロマンがある。
「学校、ですか?」
「行ったことが、ないからな」
少なくとも、この世界では。
前世では……ハイスクールの最後、年の始めに戦争が起こって『卒業』出来ないまま戦死した。
正直、今考えてみればとても悔しい。
「そうですか……」
うーん、とエスペランサは額に手を当てて、何かを考える素振りを見せた。
俺のことを考えてくれているのか、それとも別の件か。
「そうですね、取りあえず『自治区』にいってからそれは考えましょうか。……あちらにも学校はあるのかもしれません」
いや、自治区だからあるだろ普通。
特に今向かっている自治区、雪山の山奥に存在すると聞いている。
個別の学校がなければどうしろと言うんだろうか。
「そんなことよりも、今日の寝床はどうするのですか?」
「もう何日も身体洗っていないんだろう? ちゃんとした宿を取ろうか」
こくっ、とエスペランサは顔を赤らめながら頷いた。
この娘、俺について行くというくらいだから俺に気があるのかと思ったら。
おそらくそれも少しあるのだろうが、ガードはとても堅かった。
無理に関係を要求する、というのも性に合わないためしなかったが。
「お風呂……ほぁぁ……」
エスペランサの家には湯船がなかった。
極寒の地だ、湯船に浸かるという文化はないのかと疑問に思う。
前世で、極東の地『日本』と最北の地『ロシア』では湯船に浸かって体を温めるという共通の文化があった。
この世界の文化は、やはり異世界ということで違うんだろうか。
俺は風呂、という単語を聞いて嬉しそうに獣耳をぴこぴこさせているエスペランサの頭に手を置いた。
俺にとっては謎だらけの彼女だが、悪い人ではないだろう。
「どうしましたかっ?」
戸惑ったような顔で俺を見つめるエスペランサ。
心なしか、目尻が濡れているような気がして俺はなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
俺は首を振って、何でもないと笑った。
そして、彼女に尋ねる。
「さて、宿屋はどこがいいんだ? 一番高いのでかまわない」
エスペランサは『風呂』という単語に過剰反応を示したのか、本気で一番高い宿屋を選んだ。
まあ、そんなことを言ってしまっても結局はこの程度の町だ。
値段は高が知れていたため、何のことなく払い終わり俺はベッドのに倒れ込んだ。
「……あの、お先に入ってもよろしいでしょうか?」
「んー、ゆっくり休んでおいで」
ベッドが思う以上に柔らかかったため、俺は薄れゆく意識と戦いながらエスペランサに許可を出す。
別に気遣わなくてもいいのだが、どうやらエスペランサには『金を払って貰っている身』という意識がどうしても拭いきれないらしい。
いい子すぎる。
それにしても、ベッドが気持ちいい。
今まで雪の上に寝袋を展開して寝ていた反動が、今すべて来ている。
俺は身を委ねてしまいそうになる感覚から、必死に逃れて俺は起きあがった。
少しでも耳を澄ませば、隣の風呂場からシャワーの音が聞こえてしまいそうだ。
……まあ、だからどうという話なのだが。
御読了感謝いたします。
次回は明日に。