247 笑顔
「俺の女に触るな」
俺はアンセルの肩に手をかけた、ユベグと呼ばれている男の手を振り払った。
一線どころではなく、ちょっとダメな領域まで踏み込んでいるような気がする。
本当はこういう人と関わりたくない。面倒なことになるのは分かっているのだが、アンセルが巻き込まれた以上積極的に巻き込まれよう。
相手が触れてきたのが悪いのだ。
そういうことにしておいて、俺は彼の頭を掴む。
思ったよりも小さな頭だ。そして、柔らかい。
こめかみの部分を小指と親指で挟んでいるのだが、少し力を込めればそのまま凹みそうである。
「済まない。きちんと償いはするから、ユベグを放してくれないか? この前ここに来たばっかりで、何もわかっていないんだ」
しばらくそのままで、少しずつ少しずつ力を込めていくと。ユベグという男は唸るような悲鳴を発し始めたため、先ほどまで彼女を諌めていた別の男が俺に頭を下げた。
彼は俺が何者なのかということが分かっているようだ。
彼にはそれをききたかった気もするが、しかしそれも面倒に感じられた。
俺は、ただ彼をアンセルから放したかっただけだ。アンセルが俺の方を見てあたふたしているのを鑑みれば、これ以上の罰も必要ないのだろう。
俺はアンセルのためだけに、ユベクを放した。
彼を一瞥して、何事もなかったかのように席につく。
「アンセル、美味しい?」
「はい。でも、食べ終わっちゃいました」
と、俺のアイスコーンを見つめている彼女に、俺は要らなくなっていたそれを渡す。
彼女の笑顔を守るのが俺の義務だ。だから気にしていないようだったら、男を気にする必要もない。
本当なら、今頃路地裏に連れ込んで半殺しにしているところだ。
絶対に許さなかっただろうが、まあしかたのないことだな。
とりあえず、彼女たちが食べ終わったら城に帰ろう。
自分たちの目の前に存在する3人の大切な人々を見やって、俺は簡単に息を吐いた。
「なんだか、最近めっきり少なくなってきたのですけれども。やっぱりなんというか、いるのですね」
城に帰って、アンセルが言葉にしたのは先程のユベグという男のような人種のことだろうか。
確かに、最近はこういうのがなくなっていたから慢心していたが、考えれば考える程慢心というのが行けないことだとわかるな。
これからはやっぱり警戒しないといけないか。
「……シルバさんの胃が、マッハで削られていきそうなので全然気にしなくてもいいですよ?」
心配してくれているのはエスペランサだ。俺の健康状態が著しく、今から悪くなっていくことを予想してのその言葉だろう。
心配をかけている時点で、エスペランサの胃も心配ではあるが。
そう思って彼女を見つめていると、希望神はにっこりと笑顔を見せた。
その顔は、俺の悩みや心配を一緒くたにして吹き飛ばしてしまうような破壊力を持っている。
思えば、もうすぐで2年が始まる。
正直学園を中退して、魔剣に打ち込みたいんだが、そうもいかないな。
1年の時頑張っていなかった分、なんとか取り戻さねば、行けないと感じていたのだ。
何が、と言われれば何とも言いがたいが。
外にいすぎた。
「皆さま晩餐会ですよ」
侍女の1人が俺たちを呼びに来ていた。
晩餐会、というのはいささか語弊があるような気もしたが、それでいいのかな。
俺はよくわかっておらず、とりあえず頷いてリンセルアンセルエスペランサの3人をみやる。
「ふたりとも、誕生日おめでとう」
最終的に、死のあとに選べるのは1人っていうか……エスペランサだが。
生前は、少しくらい贅沢をしたっていいだろう。




