246 今頃
「美味しいです。程よく甘くて、ほどよく暖かくて」
俺は、目の前でアップルパイのような棒状の何かを頬張っている希望神を見つめていた。
一瞬、相手が神であることを忘れる程度には彼女が愛らしく思えて、どうしても目を逸らしていないと顔が緩んでしまう。
最も、逸らしたところで状況が変わるかといえば変わらないのだが。
「シルバ君ニヤニヤしてる」
「顔を覗き込むな、恥ずかしいから」
顔をあげると、リンセルもニヤニヤしていた。
俺と違うところは、俺が幸福感で顔を緩んでいるのに対し、彼女は俺を見て笑顔を作っているところだろうか。
思えば、リンセルもこんな顔をするんだ、と俺は気付かされた。
いつもは元気いっぱいで、むしろ純粋な笑みを浮かべている彼女が、俺の前でそんな表情を浮かべているのを考えていると感慨深いものもある。
「アンセル、それ冷たくないのか?」
「冷たいですよ?」
冷たいですが、やっぱり私はこれが好きですとアンセル。
彼女が食べているのはスノーコーン。いったい何が言いたいのかといえば簡単で、かき氷である。
真冬の、こんな時期に食べるものだとは到底思えないんだが、この子の感覚は一体どうなっているんだろう?
少なくとも、常人の感覚はしていないのではないか、と予測することはできるが真実はわからない。
「でも、シルバさんだって食べているじゃないですか」
「これ、ホットだぞ?」
この世界には、暖かい氷というのが存在する。
俺は確かに、アンセルと同じモノを頼んだ。
だが、とりあえずコールドとホットがあれば、奇妙な方に興味を惹かれてそっちをえらぶだろう?
「実際暖かいし、湯気立ってる」
「それ、でも結局美味しいって話題なんですよ」
じゃあなんで頼まなかったんだ。
俺は気になったが、彼女がもじもじと何かを言いかけているのを見て、ははんと察した。
「はい、あーん」
スプーンで軽くすくい、彼女に差し出す。
やってほしかったら自分で言えばしてやるのに、というのは女心をわかっていないと判断されるのかな。
ぱく、と口にふくむアンセル。
それを見て、「私もー」とリンセルが口をぱくぱくさせていたし、エスペランサもじっと俺を見つめている。
なに、やって欲しいの?
「みんな、ちゃんと口にしような」
「……察せないシルバ君……」
「ごめんって」
とりあえず、2人にもあげよう。
リンセルとエスペランサの口の中にも放り込み、俺も一口。
体の奥で溶けるような感覚がする。
そこからあたたかみがほんのりと広がり、同時に後味の悪くない甘さが身体を駆け巡るんだ。
「んん~!」
っと、女子3人が歓喜の声を押し殺している。
そんな姿を見ながら俺も残りを食べていると、誰かから声をかけられた。
「おいそこのお嬢ちゃんたち! 俺たちと飲まないか?」
……バカかな? ちょっと待て、本当にこの人達は考えなしなのか?
かおをあげると、そこにいるのはもじゃもじゃ頭の青年である。
「悪いが、全員俺の連れなんだ」
最初は穏やかに。
もしかして俺のことが見えていなかったのかもしれないな。
輝きださんばかりの美少女がいたら、もしかして俺の方に気づいてなかったのかもしれない。
ていうか、そもそも希望神とここの領主の娘が2人。
本当に考えなしの大馬鹿者かなって思ってしまった。
「は? お前に話ししてねえよ」
「……おい、ユベグやめとけよ」
いきなりの暴言にカチンときながらも何とか理性で何とかしていたら、彼の仲間らしい男が彼を押しとどめた。
彼は俺の事を見て目を一瞬だけ見開いたし、リンセルとアンセルのことも分かっているようである。
さすがに、エスペランサの事はわからないか。
「ユベグやめろ。外からやって来たんだから声をかける相手を間違えるな」
「は? この男が何か特別だとでも?」
それをきいて、リンセルが「特別に決まってるじゃない、私達の……」と何やらつぶやいているが、彼女たちを見つめて鼻の下を伸ばしきっている彼には聞こえない。
俺は万が一の時を考えて、とりあえず店員さんに目配せした。
彼に見えない場所で指差し、手を動かして殴る動作をする。
店員はその意味がわかったようで、店長に何かを説明してすぐに頷いた。
どうも、テレパシー的な能力を使える人のようだ。
というわけで、俺は店の中で暴力を振るう許可をもらったわけだが。
さすがにやめよう、店に迷惑だからね。
「申し訳ありませんが、貴方には彼のような魅力が感じられません」
なんだかんだ言って、アンセルの感情の籠もってない声は恐ろしい。
吹雪が体の中を駆け巡るような感覚だ。
「は?」
「私に殴りかかりますか? どうぞ? ただ、その後どうなるか知りませんよ?」
アンセルの煽りは、本気だからなぁ。
彼女を殴ったら俺は手加減しないし、殴った時点でルークエルリダスさんが許さない。
しかし、ユベグという男は、一線を超えてしまった。




