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龍眼族の異世界魔剣鍛冶  作者: 鶴琉世乃
第12章:極光【Aurora】
241/333

241 女神様の殺意

「……」


 結構容姿のいい女性に抱きつかれたというのに、俺の気持ちはヒドく冷めていた。

 怒りが自分を支配しているわけでもなければ、今さっきまで楽しんでこの町を見ていたというのに、すべてどうでもよくなって気がする。


 アンセルの言っていた意味が分かった。正しくは意味をはき違えているのかもしれないけれども、この娘は根本的に俺と合わない気がした。


「離れろ」

「ん? もしかして、緊張しちゃった?」


 相手は俺の周りを取り巻く雰囲気の変化に気づいていないようだった。

 色気を振りまきながら、俺の身体を服越しに指でなぞる。


 悪寒がするとともに、俺は後ろの方で一つの影が動いたのをみた。


「私のシルバさんに……」


 エスペランサだ。しかも恐ろしいことに、今回彼女は殺意すら周りに発散させていた。

 迸る神のオーラすら、彼女は隠そうとしていない。

 ここでやっと、女はエスペランサに気づいたようで、慌てて俺から離れるが時すでに遅し。


 触れたとき、音はしなかった。

 しかし、近距離にいた俺が一瞬吹き飛ばされる程度の衝撃はやってくる。


 リンセルとアンセルは……魔剣が守ってくれているようだ。一安心。

 だが、その女の衝撃というのは、すさまじい物だった。


「殺す」


 エスペランサは、あくまでも迷法族カラミタの能力で憎悪を燃やしていた。

 神の力は使う様子がなく、今回は道路向かい側の壁に彼女を押しつけたにすぎない。


 ただ。ただでさえ迷法族カラミタなのに、今回は手加減をしていないようだ。

 彼女の後ろに、後光が差している。


「……何よ貴方」

「【希望神】エスペランサ・ホープレイ」


 何バカなことを、と女は毒づきエスペランサの手を払う。


 ……いや、本物なんだが……今回のエスペランサは軽率な気がする。

 現実世界にここまで干渉していいんだろうか?

 自分の正体は、後でどうせ記憶を消去するんだろうが。記憶のゆがみは後々巨大なゆがみとなって世界に影響するんだろうな。


「いいわ、決闘しましょう」


 女は、覚悟を決めたように闘技場の方を指さした。

 彼女からすれば、自分の親友の彼氏に色目使ったらほかの彼女が怒った、というのだから少々納得のいかないものかもしれないが。

 こうくる……のも、どこか軽率に見える。


 エスペランサがぴくぴくと右手を動かしている。

 もしかして、この超展開は彼女が操作して作り上げた舞台なのかもしれない。


 俺にはまだ、神に干渉する力なんてないから。

 今回は、ゆっくり彼女たちの戦いをみてみようっと。







 城下町【フリーダ】唯一の小さな闘技場は、突然の決闘に活気立っていた。

 【希望神】の異名を名乗った少女と、名家の娘の決闘。


 この町には、ほとんどが希望神を信仰しているからか、老若男女関係なくやってきたのだ。


「今回はイスフィールちゃんが悪いかな!」


 リンセル、親友を見捨てる。

 正しい判断だとは思うが、まあ仕方ないだろう。


 まず、エスペランサが負ける要素が一つもないところから、この試合はおかしい。

 しかも、彼女は本気だ。先ほど静かに俺の方へやってくると、「神の力を少々使います」ってわざわざ進言してきた。


 神の力を使うと言うことは、彼女が本来の姿を取り戻すということだ。

 龍神のように、見たら普通の人間なら溶けるとかではなさそうだが、希望神ならその姿をとらえることが難しそう。


「押さえますから」


 力を? 俺にはよくわからない。

 というか、エスペランサの姿でなれきっているが本来は彼女の姿は……。

 本当は、ずっと希望神の姿でいてほしいのだけれども。


「今回のことで、離ればなれになったりしないのか?」

「シルバさん、なんだか弱気ですね」


 弱気って言うか。

 俺は転生してからずっとエスペランサ……希望神と一緒にいたから、今頃になっていなくなるのはどうもやるせない。


 しかし、彼女の表情をみれば俺の心配事なんぞ吹き飛んでしまう。

 彼女は、笑顔を浮かべていたのだ。


「シルバさんが願うなら、ずっと私は貴方のそばにいます。

 シルバさんが望むなら、死後も私は貴方と一緒にいます。

 これが私の祝福です。そして、私の悲願です」


 何十回何百回、好きな人を作っては捨てられて、絶望しながらも世界を牽引した神の言葉。

 その言葉は、確かに深く染み込んだ。


「さて、ちゃちゃっと勝ってきます」


 時間だ。エスペランサは首を伸ばして寄り添うようにしていた顔を動かし、俺の口にキスをした。

 彼女からそうされるのは初めてで、今まで求めてきたばっかりだから少々照れくさい。


 でも俺は、彼女が何かとんでもないことをしでかしてしまうのではないかと、いやな予感を覚えずにはいられなかったのだ。

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