232 爪
「久しぶり、でもないかなシルバ」
ルークエルリダスさんは、前であった時と同じ笑顔で俺を見つめていた。
俺の方を見て、アンセルとリンセルの顔を見て、彼女たちにも挨拶をする。
「リンセル、アンセル。おかえり」
「ただいま帰りました、お父様!」
アンセルは元気いっぱいだ。目覚めてからやっと出会えたという喜びと、おそらく俺が隣にいるからだろう。
さきほどから、チラチラとこちらを見つめている。
かわいい。気づかれていないと思ってるのか、時折十面相してみせたりしているがどれも魅力的だ。
しかし、リンセルは挨拶を返さなかった。
暗い表情のまま、俯いて何を考えているのかわからない。
彼女のことがちょっと心配になったし、本当に大丈夫かと不安にもなった。
もちろん、そんなことは【デルエクス】の中にいる時でもわかっていたことだ。
レイカー城に近くなれば近くなるほど、彼女を取り巻く雰囲気というのは陰鬱となっていて。
「リンセル、後で私の部屋に来なさい」
「はい……」
ルークさんは、そんなリンセルを見て思うところがあったようだ。
彼女を心配はしたが、彼女を慰めるのは俺の仕事ではないような気がした。
「ゼロ、シルバとヒョウリの部屋を案内してやってくれ」
「はい」
ゼロ=オールはレイカー家の護衛に態度が変わっている。
こちらを見てウインクこそしているが、身体は改修後のごつい機械騎士姿で礼をしている。
バイザーも取り付けられ、彼の表情は完全に見えなくなった。
「疲れただろう、晩餐までゆっくりするといい」
リンセルを押しとどめて、ルークさんは俺達に告げる。
どうしようか、さて、自分の部屋で何をしようかな?
「で、やっぱりすぐに魔剣鍛冶に入る」
「車の中で寝たし、特に疲れてないからな」
俺は部屋に到着するとともに、簡易魔剣鍛冶用の作業台を取り出す。
何をするかはそれだけでわかるだろう、魔剣鍛冶だ。
とりあえず、新学年が始まるまでに試作品を正式にプロトタイプへとしたい。
クインを出来るだけ安全な状況にしておきたい。
だから、こうやってするしかないのだ。
「試作品ですか?」
「魔鎧に組み込む」
「レオさんのためなんですね」
「いや、クレインクインのためだ」
あくまでも、騎士に力は与えるがそれは騎士の使える王の為に使ってもらう。
だからこそ、もし反逆の牙を剥いた時は、レオを破壊するようにもできている。
クインは優しいから、そういうのは嫌がるだろうが。
「で、どうするんです?」
「クローがいいかなって」
ワイヤーで射出するか、どうしようか。
とりあえずトリッキーな方法で相手の意表を付くというのも必要だ。
魔法を糸状にして、回収可能にするのも面白いかもしれない。
「仕込みで?」
「うん」
とにかく、できるだけ早く完成させないと。
俺も納得がいかないし、クインにも心配させてしまう。
「あ、そうだ」
俺は、その射出できる「爪」に制約をつけようと決めた。
レオの安全も必要だが、今回……特に試作品である今は、クインに害が及ばないのを再前提にするべきだ。
「エスペランサ、ちょっと手伝ってくれ」
彼女の名前を呼ぶと、その神は嬉しそうな顔でそっと微笑むと、こちらを覗きこんだ。
「なんですか?」
「どこまで遠く、魔法の糸が続くか試したい」
「……分かりました、とりあえずレオさんを想定して魔力を放出してみますね」
なんだ、その能力は。
思った以上にすごいものだな。
「このくらいでしょうか。転生者で、多めに補正がかかっているとしても」
「城から城の端までか」
300m位か。このくらいなら十分だな。
俺はそれでいいと判断し、作業台でそれを組み込み始める。




