196 孤独
後半ラン視点
エスペランサの繰り出してきた剛腕は、俺の魔剣が発動した魔法障壁にぶつかると、ガラスの砕け散るような音ともに魔法部分が肉体と分離された。
感心するやら驚くやら、妙な表情をしたエスペランサは、最終的に「すごいですね」と、魔剣をきらきらした目で見つめることに終結する。
確かに、手ごたえはある。
「エスペランサ、さっきのはどのくらいの威力で殴りつけたものなんだ?」
「そうですね、知勉族ならあばら骨全部破損、魔法効果によって斜め上に向かって打ち出されて……」
と、ちょっと怖い説明をし始めるエスペランサに、俺は慌てて言葉の中断を支持、一言で言ってもらうことにする。
「簡単に? ……ええと、私が測量したなかではラン・ロキアスくらいの高濃度で攻撃はしました」
くらい、ということはラン・ロキアスはこれよりももう少し強いか弱いかということだろう。
……少し強くするか、うん。
「工房に戻るぞー」
「はい。わかりました」
ちなみに、エスペランサが本気でぶっ放すと、ここの城は壊滅するらしい。
よくわからないけど、普通に考えて謎法族ヤバい。
「……今回は、エスペランサが命名しなよ」
「はい。では、【聖域創造】、と」
ほう、【聖域創造(サンクチュアリ・クリエイター】、か。
即答で言われるのなら、最初からそう進言してくれればよかったのだが。
まあ、この名前は大切にしよう。
俺はニコニコ顔で目を輝かせているエスペランサの頭に手を伸ばし、引き寄せてなでてやる。
「もう少しだけ調整したら、今日はもう寝ようか」
「そうですね、よろしくお願いいたします!」
「はぁ……」
俺……ラン・ロキアスは、エスペランサさんに案内された部屋の、ベッドに倒れこんでため息をつく。
あの、エスペランサっていう人、かなり強い。
なんというか、強者の余裕が現れている。
それが、態度や、言葉として表に露出しているのだ。
エクアトゥールのお付きだと思っていたのだが、残念ながら俺の考えは間違っていたのかもしれない。
「魔剣の手入れって。どうすればいいんだ」
俺は、カレルからもらった【夕暮れ時の太陽】をみつめ、その汚れも何もない剣を見つめる。
魔剣というものを見たのははじめてではないが、それを手に入れたのは初めてだ。
光明の如き輝き、魔剣というのはこうまでも美しいものだったのか。
確かに、世界中の人たちが魔剣を追い求める理由が分かったような気がする。
だからこそだろうか、普通に考えても少しだけ。
シルバ・エクアトゥールがうらやましくなった。
「とりあえず、明日の戦いには勝つ」
魔力頼みだが、俺の魔力は特別だ。
だからこそ、あの人に勝てると思っているし、実際に勝って見せる。
そして、【準王族】となって権力を手に入れる。
権力と影響力を手に入れられたら、あとはこの世界を旅したいな。
やりたいことはたくさんあるけれど、まあ。
今のところやったって、捕らぬ狸の皮算用でしかない。
有言実行とするためにも、もう少しだけ頑張ってみなければ。
「……おやすみ」
誰に、でもなく。
とりあえず、それだけを呟いて俺は目を閉じる。
転生前、俺は孤独だった。
友人はいなかったし、本当の家族……実の母親は交通事故で亡くなっている。
父親はそれが原因で自暴自棄になりながらも、俺が食事できるように仕事はしていた。
そこから……俺は鉄骨事故、か。
今頃、父親はどうしているんだろうな。
……レイカー家の今回が終わったら、見捨てられているかもしれないがちゃんとリンにお礼を言わなきゃ。
勝とうが負けようが、リンはこの世界に入って初めて、俺に接してくれた人なのだから。
何もわからない俺を、1年間も世話してくれたのだから。